『光る君へ』に登場する和歌
大河ドラマ『光る君へ』に引用された和歌をご紹介します。
和歌が登場した最新話(第44回)の和歌はこちらです。
第2回「めぐりあい」
原文
人の親の 心は闇に あらねども
子を思ふ道に まどひぬるかな
出典:『後撰和歌集』藤原兼輔
現代語訳
人の親の心は闇というものではないけれど、子を思う道は闇のように迷ってしまうものですよ。
この歌は、『源氏物語』の「夕顔」の帖に登場する光源氏の一首です。
原文
寄りてこそ それかとも見め たそかれに
ほのぼの見つる 花の夕顔
出典:『源氏物語』第4帖「夕顔」
現代語訳
近くに寄ってそれかどうかお確かめください。黄昏にぼんやり見えた夕顔の花を。
第3回「謎の男」
原文
見てもまた またも見まくの ほしければ
なるるを人は 厭ふべらなり
出典:『古今和歌集』 詠み人知らず
現代語訳
逢ってもまた逢いたくなるので、親しくなるのをあなたは避けているのでしょうね。
原文
秋の夜も 名のみなりけり 逢ふといへば
ことぞともなく 明けぬるものを
出典:『古今和歌集』小野小町
現代語訳
秋の夜も名ばかりでしたね。
あなたと逢うとあっけなく夜が明けてしまったのだから。
第6回「二人の才女」
伊勢物語に出てくる和歌の「大宮人」の部分が「恋しき人」にアレンジされています。
原文
ちはやぶる 神の斎垣も 越えぬべし
恋しき人の 見まくほしさに
出典:『伊勢物語』第71段
現代語訳
神聖な垣根といえども越えてしまいそうです。恋しいあなたを一目見たさに。
第10回「月夜の陰謀」
原文
思ふには 忍ぶることぞ 負けにける
色には出でじと 思ひしものを
出典:『古今和歌集』詠み人知らず
現代語訳
愛しく思う気持ちをこらえる心が負けてしまった。顔色に出すまいと思っていたのだけれど。
原文
死ぬる命 生きもやすると こころみに
玉の緒ばかり 逢はむと言はなむ
出典:『古今和歌集』藤原興風
現代語訳
死んでしまいそうな命だ。生き返るかもしれないから試しにほんの少しでも逢いたいと言ってほしい。
原文
命やは なにぞは露の あだものを
逢ふにしかへば 惜しからなくに
出典:『古今和歌集』紀友則
現代語訳
「命」それが何だというのでしょう。露のように儚いものではないでしょうか。 あなたに逢えるならば、何も惜しくはありません。
第14回「星落ちてなお」
原文
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は
いかに久しき ものとかは知る
出典:『拾遺和歌集』右大将道綱母
現代語訳
あなたが来なくて嘆きながら一人で寝る夜。
その夜を明かすまでの時間がどれほど長いかわかりますか。
第17回「うつろい」
原文
忘れじの ゆく末までは かたければ
今日を限りの 命ともがな
出典:『新古今和歌集』儀同三司母
現代語訳
「ずっと忘れない」という言葉は難しい約束でしょうから、その言葉を聞いた今日限りの命だったらいいのにと思ってしまいます。
第23回「雪の舞うころ」
原文
夢路にも 露やおくらむ 夜もすがら
かよへる袖の ひちて乾かぬ
出典:『古今和歌集』紀貫之
現代語訳
あなたに逢う夢路でも露はおりるのでしょうか。夜通し通う袖が濡れて乾くことがありません。
原文
ここにかく 日野の杉むら 埋む雪
小塩の松に 今日やまがへる
出典:『紫式部集』
現代語訳
ここ越前ではこのように日野山の杉林は雪に埋もれんばかり。都の小塩山の松にも今日は雪が降り積もっているのでしょうか。
第24回「忘れえぬ人」
原文
行きめぐり 逢ふを松浦の 鏡には
誰をかけつつ 祈るとか知る
出典:『紫式部集』
現代語訳
めぐりめぐって、また会えることを松浦の鏡神社に誰のことを思って祈っているのかわかりますか?
第25回「決意」
原文
空寒み 花にまがへて 散る雪に
少し春ある 心地こそすれ
出典:『枕草子』
現代語訳
空が寒々しいので、花に見間違えるように舞い散る雪に少し春らしさが感じられます。
第26回「いけにえの姫」
原文
たけからぬ 人かずなみは わきかへり
みはらの池に 立てどかひなし
出典:『紫式部集』
現代語訳
立派でもなく人並みの私が腹を立てても仕方がないですね。
第27回「宿縁の命」
原文
紫の 雲ぞみゆる 藤の花
いかなる宿の しるしなるらむ
出典:『拾遺和歌集』藤原公任
現代語訳
まるで紫の雲のように藤の花が咲き誇っている。どのような吉兆がこの家に訪れる兆しなのだろうか。
第28回「一帝二后」
原文
みな人の 花や蝶やと いそぐ日も
わが心をば 君ぞ知りける
出典:『枕草子』藤原定子
現代語訳
皆が花よ蝶よと流行を追うのに急ぐ日もあなただけは私の心を理解してくれるのですね。
原文
夜もすがら 契りしことを 忘れずは
こひむ涙の 色ぞゆかしき
出典:『後拾遺和歌集』藤原定子
現代語訳
一晩中お約束してくださったことを忘れずにいてくださるなら、死んだ私を恋しく思って泣いてくださる涙の色を見たいと思います。
第30回「つながる言の葉」
原文
人はいさ 心も知らず ふるさとは
花ぞ昔の 香に匂ひける
出典:『古今和歌集』紀貫之
現代語訳
人の心は変わってしまうものですから、あなたの気持ちもわかりませんね。ふるさとでは、梅の花がかつてと同じように美しく咲き、香りを漂わせていますよ。
原文
声聞けば 暑さぞまさる 蝉の羽の
薄き衣は 身に着たれども
出典:『和泉式部集』
現代語訳
蝉の鳴き声を聞けば、ひとしお暑く感じられます。蝉の羽のように薄い衣を着たのだけれども。
原文
人の親の 心は闇に あらねども
子を思ふ道に まどひぬるかな
出典:『後撰和歌集』藤原兼輔
現代語訳
人の親の心は闇というものではないけれど、子を思う道は闇のように迷ってしまうものですよ。
第31回「月の下で」
原文
黒髪の 乱れも知らず うち伏せば
まづかきやりし 人ぞ恋しき
出典:『後拾遺和歌集』和泉式部
現代語訳
黒髪が乱れているのも気にも留めず、思い乱れて横たわっていると、かつて髪をかき分けてくれたあの人が恋しい。
第35回「中宮の涙」
原文
ものをのみ 乱れてぞ思ふ 誰にかは
いまは嘆かむ むばたまの筋
出典:『和泉式部続集』和泉式部
現代語訳
もの思いばかりして、心が乱れ、黒髪も乱れ、この気持ちを誰に嘆いたらよいのでしょうか。
原文
神垣は 木の丸殿に あらねども
名のりをせねば 人とがめけり
出典:『今昔物語集』藤原惟規
現代語訳
斎院の垣根は、木の丸殿ではないのに、名乗らないと咎められてしまうのですね。
原文
見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに
やがて紛るる 我が身ともがな
出典:『光源氏』光源氏
現代語訳(ナレーション)
こうしてお会いしても、またお会いできるとは限りません。夢の中にこのまま消えてしまう我が身でありたい。
原文
世語りに 人や伝へむ たぐひなく
憂き身を覚めぬ 夢になしても
出典:『光源氏』藤壺
現代語訳(ナレーション)
世の語り草として人は伝えるのではないでしょうか。類なく辛いこの身を、覚めない夢の中のこととしても。
第36回「待ち望まれた日」
原文
めづらしき 光さしそふ 盃は
もちながらこそ 千代もめぐらめ
出典:『後拾遺和歌集』紫式部
現代語訳
美しい月光が射し込む盃は、皆さんに持たれながら、望月のように欠けることなく、永く続くことでしょう。
ドラマでは、藤式部(紫式部)が「中宮様という月の光に皇子様という新しい光が加わった盃は、今宵の望月のすばらしさ そのままに千代もめぐり続けるでありましょう。」と歌の意味を説明していました。
原文
いかにいかが かぞへやるべき 八千歳の
あまり久しき 君が御代をば
出典:『紫式部日記』紫式部
現代語訳
いったいどのように数えたらよいでしょうか。八千代ほど長く続く親王様のお歳を。
原文
あしたづの よはひしあらば 君が代の
千歳の数も 数へとりてむ
出典:『紫式部日記』藤原道長
現代語訳
私に鶴のような寿命があれば、親王様の千歳の数も数えられるのだろう。
第37回「波紋」
紀行「滋賀県東近江市」より
原文
あかねさす 紫野行き 標野行き
野守は見ずや 君が袖振る
出典:『万葉集』額田王
現代語訳
あかね色を帯びた紫草の野に行き、御料地を行くあなた。 野守が見てしまうのではないでしょうか。あなたが袖をお振りになるのを。
第38回「まぶしき闇」
紀行「兵庫県神戸市」より
原文
かたがたに 別るる身にも 似たるかな
明石も須磨も おのが浦々
出典:『栄花物語』藤原伊周
現代語訳
別々に分かれていく自分たちの境遇に似たことだなあ。明石と須磨が近くて遠い別の浦にあるように。
「立つ」と「裁つ」、「浦」と「裏」が掛詞になっています。
原文
白浪は たてど衣に かさならず
明石も須磨も おのが浦々
出典:『拾遺和歌集』柿本人麻呂
現代語訳
布は裁っても縫うことで表と裏が重なるが、白波は立っても、重なることはない。明石も須磨も別の浦にあるのだから。
第39回「とだえぬ絆」
原文
都にも 恋しき人の 多かれば
なほこのたびは いかむとぞ思ふ
出典:『後拾遺和歌集』藤原惟規
現代語訳
都にも恋しい人がたくさんいるゆえ、なんとしても生きて帰りたいと思います。
第39回「とだえぬ絆」
紀行「滋賀県大津市」より
原文
逢坂の 関うちこゆる ほどもなく
今朝は都の 人ぞ恋しき
出典:『後拾遺和歌集』藤原惟規
現代語訳
逢坂の関を少し越えたばかりなのに、今朝はもう都にいるあなたが恋しくてなりません。
第40回「君を置きて」
原文
露の身の 風の宿りに 君を置きて
塵を出でぬる 事ぞ悲しき
出典:『権記』一条天皇
現代語訳
露のようにはかない身を寄せるかりそめの宿である現世にあなたを置いたまま出家してしまうことは悲しいことだ。
第41回「揺らぎ」
そんな敦成の姿を目にした彰子は、次の歌を詠みました。
原文
見るままに 露ぞこぼるる おくれにし
心も知らぬ 撫子の花
出典:『後拾遺和歌集』彰子
現代語訳
我が子を見るにつけても涙の露がこぼれてしまう。あとに残されたことを知らないで、撫子の花を手に取っている我が子よ。
そこで彰子の女房である赤染衛門、紫式部、和泉式部が歌を披露しました。
原文
誰にかは 告げにやるべき もみぢ葉を
思ふばかりに 見む人もがな
出典:『赤染衛門集』赤染衛門
現代語訳
誰に伝えたらいいのでしょうか。この紅葉を心ゆくまで共に楽しめる人がそばにいてくれたらいいのに。
原文
なにばかり 心づくしに ながめねど
見しにくれぬる 秋の月影
出典:『紫式部集』紫式部
現代語訳
秋の月に特別な思いを寄せて眺めていたわけではないけれど、見つめるうちに涙で霞んでしまった。
原文
憂きことも 恋しきことも 秋の夜の
月には見ゆる 心地こそすれ
出典:『和泉式部集』和泉式部
現代語訳
辛いことも恋しいことも澄んだ秋の夜空に浮かぶ月には映し出されているように感じられる。
第41回「揺らぎ」
紀行「京都府京都市」より
原文
小倉山 嵐の風の 寒ければ
散るもみぢ葉を きぬ人ぞなき
『大鏡』藤原公任
現代語訳
まだ早い朝に強風が吹き荒れる山から吹き下ろす風が大変寒いので、木々はみな上着を着こむかのように錦のような紅葉をまとっていることよ。
第42回「川辺の誓い」
この歌は『源氏物語』で光源氏が詠んだ最期の歌です。
原文
もの思ふと 過ぐる月日も 知らぬ間に
年もわが世も 今日や尽きぬる
出典:『源氏物語』紫式部
現代語訳
物思いばかりして月日が過ぎたことも知らぬ間にこの年も我が生涯も今日で尽きるのか。
第44回「望月の夜」
この歌は長らく権力者の奢りの歌であると捉えられることが多かったのですが、最近の研究では、「この世」は「この夜」で、后となった娘たちを月に見立て、さらに公卿たちが持つ盃と掛けて詠んだものではないかという新しい解釈が登場しています。娘たちはみな后になった。盃を交わした公卿たちは誰も欠けていない。だから一緒に娘たちを支えていこうと公卿たちに呼びかけた道長の親心が滲む歌だという説が出てきています。
詳しくはこちらをご参照ください。
原文
この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の
欠けたることも なしと思へば 『小右記』より
現代語訳
この世は我が世であると思う。
満月に欠けるもののないように、
すべてがそろっている
『光る君へ』に登場する
百人一首の歌人たち
2024年の大河ドラマ『光る君へ』。平安時代中期にスポットを当てたドラマの登場人物たちは和歌の名人が多く、百人一首に採られた歌人もいます。
清原元輔
元輔は58歳ごろに娘の清少納言をもうけています。受領階級の貴族で地方を転々とし、当時としては長寿で82歳ごろに亡くなっています。
清原元輔
契りきな
かたみに袖を
しぼりつつ
末の松山
波こさじとは
原文
契りきな かたみに袖を しぼりつつ
末 の松山 波こさじとは
現代語訳
約束しましたよね。
涙に濡れた着物の袖を絞りながら
末の松山を波が決して越えないように
私たちは変わらないと。
右大将道綱母
蜻蛉日記の作者で藤原兼家の妻の一人
右大将道綱母
嘆きつつ
ひとり寝る夜の
明くる間は
いかに久しき
ものとかは知る
原文
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は
いかに久しき ものとかは知る
現代語訳
あなたが来なくて
嘆きながら一人で寝る夜。
その夜を明かすまでの時間が
どれほど長いかわかりますか
儀同三司母
藤原道隆の妻で、藤原伊周の母
儀同三司母
忘れじの
ゆく末までは
かたければ
今日を限りの
命ともがな
原文
忘れじの ゆく末までは かたければ
今日 を限りの 命ともがな
現代語訳
「ずっと忘れない」という言葉は
難しい約束でしょうから
その言葉を聞いた
今日限りの命だったらいいのにと
思ってしまいます
大納言公任
道長を支えた四納言の一人
大納言公任
滝の音は
たえて久しく
なりぬれど
名こそ流れて
なほ聞こえけれ
原文
滝の音は たえて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞 こえけれ
現代語訳
滝の音が聞こえなくなってから
久しくなりますが
その名声は今も流れ
伝わっています
紫式部
源氏物語の作者で彰子に仕えた女房
紫式部
めぐり逢ひて
見しやそれとも
わかぬ間に
雲隠れにし
夜半の月かな
原文
めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間 に
雲隠れにし 夜半の月 かな
現代語訳
久しぶりに会えたと思ったら、あなたはあっと言う間に帰ってしまわれた。雲間に隠れた夜半の月のように
赤染衛門
源倫子、中宮・彰子に仕えた女房
赤染衛門
やすらはで
寝なましものを
小夜更けて
かたぶくまでの
月を見しかな
原文
やすらはで 寝なましものを 小夜更 けて
かたぶくまでの 月を見しかな
現代語訳
あなたがおいでにならないと
わかっていたらためらわずに
寝ていたでしょうに。
お待ちするうちに夜が更けてしまい
西の空に傾こうとする月を
眺めてしまうことになったのだなあ
清少納言
枕草子の作者で皇后・定子に仕えた女房
清少納言
夜をこめて
鳥のそらねは
はかるとも
よに逢坂の
関は許さじ
原文
夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも
よに逢坂 の 関は許さじ
現代語訳
夜が明けないうちに
鶏の鳴き真似をして
人をだまそうとしても
この逢坂の関は
決して開きませんよ
三条院
三条院
心にも
あらで憂き世に
ながらへば
恋しかるべき
夜半の月かな
原文
心にも あらで憂き世に ながらへ ば
恋しかるべき 夜半の月 かな
現代語訳
別に生きたくもない
人生になってしまったが
生きながらえたら
この夜更けの月を恋しく
思い出すことだろう