日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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大納言公任
滝の音は
たえて久しく
なりぬれど
名こそ流れて
なほ聞こえけれ
THIS waterfall's melodious voice Was famed both far and near; Although it long has ceased to flow, Yet still with memory's ear Its gentle splash I hear.The First Adviser of State Kinto
- 55番歌
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滝の音は
たえて久しく なりぬれど
名こそ流れて なほ聞こえけれ
作者:大納言公任(996年~1041年)
出典:千載和歌集 雑
- 現代語訳
- 滝の音が聞こえなくなってから久しくなりますが、その名声は今も流れ伝わっています。
- 解説
- この歌は、大覚寺にある庭園の滝殿跡で詠まれました。大覚寺は元々、嵯峨天皇の別荘で、庭には美しい滝がありました。公任が訪れた時には滝は流れていませんでしたが、その評判は今も広く伝わっていると詠みました。
- どんな人?
- 大納言公任こと藤原公任は博学多才で漢詩、和歌、管弦楽の3つの才能を兼ね備えた「三舟の才」でした。一方で、姉の藤原遵子が円融天皇の皇后になったとき、円融天皇の女御だった藤原詮子に対して「こちらの女御はいつ皇后になられるのか」と軽口を叩き、恨みを買ってしまうという軽率な一面もありました。晩年は、官位に不満を抱き、政界に見切りをつけて隠棲しました。
- 語句・豆知識
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- 滝 の 音 は
- 滝が流れ落ちる音
- 久しく なり ぬれ ど
- 久しくなったけれど
- 名 こそ 流れ て
- 名声は流れ伝わって、という意味。
- なほ 聞こえ けれ
- 今もなお伝わってくるのだなあ
- 藤原公任の系図
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藤原公任は和歌・漢詩・管弦の才能があり、家柄も藤原北家の嫡流である小野宮流に属しており、将来を期待されていました。しかし、彼の父・忠頼の時代に「長徳の変」が起きたことで状況は一変しました。この政変により、摂政の座が小野宮流の忠頼から九条流の兼家に移ってしまいました。その結果、公任はこれまで格下と見なしていた道長を支える立場になりました。
いとこに藤原実資がいます。彼は『小右記』という50年以上にわたる日記を残しており、摂関時代の社会の様子や有職故実を知る重要な手がかりになっています。息子は百人一首に選ばれている権中納言定頼(藤原定頼)です。
- 大鏡「三舟の才」に登場する和歌
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歴史物語の『大鏡』に次のような逸話があります。道長が大堰川で船遊びを催したとき、3つの舟を用意し、それぞれに管弦、漢詩、和歌の得意な人を乗せました。公任はいずれも堪能だったため、道長からどの船に乗るか尋ねられました。公任は和歌の舟に乗り込んで次の歌を詠み、絶賛されました。しかし、公任は漢詩の舟に乗っていれば、名声が一段と上がったろうにと悔やんだということで、公任の多才ぶりを知らしめる話になっています。
原文
小倉山 嵐の風の 寒ければ
散るもみぢ葉を きぬ人ぞなき 『大鏡』藤原公任現代語訳
まだ早い朝に強風が吹き荒れる山から吹き下ろす風が大変寒いので、木々はみな上着を着こむかのように錦のような紅葉をまとっていることよ。
- 彰子入内の屏風に詠んだ歌
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藤原道長の娘・彰子が一条天皇に入内する際、嫁入り道具として立派な屏風が用意されました。道長は屏風に描かれた絵に添える歌を公卿たちに詠むように依頼しました。この歌は「藤の咲きたる所」の絵に添えるために藤原公任が詠んだものです。歌の内容は、藤原氏の象徴である藤の花をめでたい兆しを意味する紫の雲にたとえて、道長の家系の繁栄を願うものになっています。
原文
紫の 雲ぞみゆる 藤の花
いかなる宿の しるしなるらむ 『拾遺和歌集』藤原公任現代語訳
まるで紫の雲のように藤の花が咲き誇っている。
どのような吉兆がこの家に訪れる兆しなのだろうか。 - 三十六歌仙
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画像は池田孤邨の三十六歌仙図屏風です。藤原公任が編纂した歌合形式の秀歌撰『三十六人撰』に収められた36名の歌人は三十六歌仙と呼ばれています。 三十六歌仙の一覧ページはこちらです。
- 和漢朗詠集
- 藤原公任による詩歌選集。声に出して歌うのに適した和歌や漢詩文を収録しています。
- 滝跡がある大覚寺
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京都市右京区嵯峨大沢町にある寺院。元は嵯峨天皇の離宮として建立されました。写真は境内にある大沢池で、日本最古の人工の庭池であるといわれています。
藤原公任はこの庭園の一角にあった滝殿跡で歌を詠みました。その滝跡は「名古曾の滝跡」として現在も残っています。
- 舟遊びをした大堰川
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大堰川 は、京都・嵐山の美しい地域を流れる川で、桂川とも呼ばれています。平安貴族たちはこの川で船遊びをしていました。
屋形船に乗って四季折々の嵐山の景色を楽しむ観光は現在も人気です。
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。
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