時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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月

赤染衛門あかぞめえもん

やすら
なましものを
小夜さよけて
かたぶくまでの
つきしかな

赤染衛門
赤染衛門

WAITING and hoping for thy step, Sleepless in bed I lie, All through the night, until the moon, Leaving her post on high, Slips sideways down the sky.Akazome Emon

59番歌
やすらなましものを 小夜さよけて
かたぶくまでの つきしかな
作者:赤染衛門あかぞめえもん(956年?~1041年?)
出典:後拾遺和歌集
現代語訳
あなたが来ないと分かっていたなら、ためらわずに眠りについたでしょうに。待ち続けるうちに夜が更けて、西の空に傾く月を見上げることになってしまったのです。
解説
『後拾遺和歌集』の詞書によると、この歌は、藤原道隆が赤染衛門の姉妹のどちらかに通っていた際、ある夜に約束していた逢瀬に現れなかったため、赤染衛門がやんわりと抗議するために代作したものです。
どんな人?
赤染衛門の名前は、父親が右衛門尉であったことに由来します。彼女は藤原道長の正妻である倫子に仕えました。その後、倫子の娘で一条天皇中宮である彰子にも仕えました。この時期に紫式部や和泉式部と同僚として交流がありました。文学の才能があり『栄華物語』の作者としても知られています。
語句・豆知識
やすらは
ためらわないで
まし ものを
寝たら良かったのに
さ夜 更け
夜が更けて
かたぶく まで
月が西に傾くまでの
かな
月を見てしまったのだなあ
赤染衛門の系図
赤染衛門の系図 平兼盛 大江匡房

の番号が付いている人物をクリックすると、その歌人のページに移動します。

赤染衛門は赤染時用ときもち(官職:右衛門尉)の娘ですが、平兼盛が赤染衛門の親権を争って裁判を起こしたものの認められなかったという逸話が残されており、父親は平兼盛だとする説があります。

赤染衛門の名前は父親である時用ときもち右衛門府に仕えていたことに由来しています。

夫は、文章博士の大江匡衡です。

権中納言匡房は赤染衛門のひ孫です。

初瀬詣で持ち帰った紅葉を詠んだ歌
次の歌は、赤染衛門が初瀬詣の際にお土産に持ち帰った紅葉について詠んだ歌です。

原文

つとにとて りし紅葉もみぢれにけり
あらしのいたく ふきしまぎれに 『赤染衛門集』

現代語訳

お土産にと思い折って持ち帰った紅葉は枯れてしまった。 嵐がひどく吹いたのに紛れて。

息子・挙周の回復を願った歌
次の歌は、赤染衛門が息子・挙周たかちか が病で危篤になった際に住吉大社に奉納されました。このとき挙周は和泉守を務めており、赤染衛門は京都から急いで駆け付けたと言われています。

原文

らむと いのいのちしからで
さてもわかれむ ことぞかなしき 『詞花和歌集』赤染衛門

現代語訳

身代わりになりたいと思う自分の命は惜しくはありませんが、祈りが通じて息子と別れることは悲しいことです。

夫・大江匡衡との歌のやりとり
赤染衛門が子を産んだとき、雇った乳母の乳があまり出なかったことをめぐって、赤染衛門と夫の大江匡衡は次のように歌をやりとりしています。
夫・大江匡衡の歌

原文

はかなくも おもひけるかな もなくて
博士はかせいえ乳母うばせむとは 『後拾遺和歌集』大江匡衡

現代語訳

頼りないことに思う。乳がでないのに文章博士の家の乳母をしようとは。

大江匡衡は「」と「」を掛詞にして、乳があまり出ないことに加えて、暗に「知識もないのに博士の家で働こうとするなんて」というニュアンスを含ませています。匡衡は当代きっての知識人でしたが、それを鼻に掛ける一面があったのかもしれません。

赤染衛門の歌

原文

さもあらばあれ 大和心やまとごころかしこくば
細乳ほどぢにつけて あらすばかりぞ 『後拾遺和歌集』赤染衛門

現代語訳

そんなことはどうでもいいですよ。大和心が優れていれば、乳が出なくてもいてもらいましょうよ。

「大和心」とは優美で柔和な心情を意味する言葉です。
赤染衛門は、乳母が素直な気持ちを持っている人だと擁護しています。

葛飾北斎による浮世絵
葛飾北斎による浮世絵
Katsushika Hokusai, CC0, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。百人一首の歌を乳母がわかりやすく絵で説明するという趣旨で制作されたものです。この絵は遊郭の女性を描いたものと言われています。中央の女性は身体をくねらせてそわそわしているように見えます。歌人と同じように恋人を待っているのかもしれません。

月岡芳年による浮世絵
月岡芳年による浮世絵
Yoshitoshi, Public domain, via Wikimedia Commons

幕末から明治中期にかけて活動した浮世絵師・月岡芳年。月にまつわる場面を題材にした『月百姿つきひゃくし』に赤染衛門も描かれています。

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