日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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和泉式部
あらざらむ
この世のほかの
思ひ出に
いまひとたびの
逢ふこともがな
MY life is drawing to a close, I cannot longer stay, A pleasant memory of thee I fain would take away; So visit me, I pray.Izumi Shikibu
- 56番歌
- あらざらむ
この世のほかの
思ひ出に
いまひとたびの 逢ふこともがな
作者:和泉式部(生没年不詳)
出典:後拾遺和歌集 恋
- 現代語訳
- もうすぐ私はこの世を去ってしまうことでしょう。あの世へ持っていく思い出に、もう一度あなたにお会いしたいものです。
- 解説
- 『後拾遺和歌集』の詞書に「心地れいならず侍りけるころ、人のもとにつかはしける」とあり、この歌は、和泉式部が病床に伏しながら恋人に詠んだものです。
- どんな人?
- 橘道貞との間に小式部内侍を設けた後、冷泉天皇の第三皇子・為尊親王、第四皇子・敦道親王と恋愛関係になりました。紫式部は和泉式部について「男女関係にだらしがない人だが、文才がある人でちょっとした言葉にも色艶が見えて魅力的である」とその才能を認めています。勅撰和歌集に246首採られました。選ばれた言葉の一つひとつが独自の輝きを放つ、天性の歌人です。
- 語句・豆知識
-
- あら ざら む
- 自分がいなくなってしまう
- こ の 世 の ほか の 思ひ出 に
- あの世の思い出のために
- 今 ひとたび の
- もう一度
- 逢ふ こと もがな
- 逢いたい
- 和泉式部の系図
- 早世した娘に捧げた歌
- 和泉式部の娘である小式部内侍は出産後に20代で亡くなっています。
『和泉式部集』には亡くなった娘を想う哀傷歌が多く収められています。ここではその中から一首ご紹介します。原文
とどめおきて 誰をあはれと 思ふらむ
子はまさるなり 子はまさりけり 『和泉式部集』現代語訳
この世に自分の子と母を残して、一体誰をしみじみと思い出しているだろう。きっと我が子を思う気持ちの方が勝っているだろう。私もあの子のことを思っているのだから。
- 夏の暑さを詠んだ歌
- 山々に囲まれ、夏の暑さが容赦ない平安京。
和泉式部は蝉の鳴き声、蝉の羽をモチーフに夏の暑さを軽やかに詠んでいます。原文
声聞けば 暑さぞまさる 蝉の羽の
薄き衣は 身に着たれども 『和泉式部集』現代語訳
蝉の鳴き声を聞けば、ひとしお暑く感じられます。
蝉の羽のように薄い衣を着たのだけれども。 - 為尊親王を偲んだ歌
- 亡くなった為尊親王を嘆き悲しんだ和泉式部の歌です。
夜風の音と為尊親王の温もりがない寂しさに打ちひしがれる気持ちが詠まれています。原文
寝覚する 身を吹き通す 風の音を
昔は袖の よそに聞きけん 『新古今和歌集』和泉式部現代語訳
眠りから覚めた私の身体を吹き通す風の音を(為尊親王と一緒だった)昔は私には関係のないものとして聞いていたのだろう。
- 敦道親王を偲んだ歌
- 亡くなった敦道親王を嘆き悲しんだ和泉式部の歌です。「呼子鳥」とは、かっこうのことです。
原文
鳴けや鳴け
わが諸声に 呼子鳥
呼ばば答へて 帰り来ばかり 『和泉式部続集』現代語訳
鳴いて鳴きつくせ。私の泣き声に合わせて呼子鳥よ。
呼んであの人が応えて帰ってくるほどに - 蛍を魂に見立てた歌
-
和泉式部が夫の関係に悩み、京都の鞍馬にある貴船神社に参拝した際、御手洗川に飛び交う蛍を見て詠んだ歌です。魂が抜けたかと思うほどに憔悴していたようですが、その後、和泉式部は夫と復縁しました。このことから貴船神社は縁結びの神様としても知られるようになったそうです。
原文
物思へば 沢の蛍も 我が身より
あくがれ出づる 魂かとぞ見る 『後拾遺和歌集』和泉式部現代語訳
物思いにふけっていると、沢を飛び交っている蛍の火も
私の身から離れ、さまよい出た魂ではないかと見えた。 - 救いを求めた歌
- 恋に奔放に生きる代償に、思い悩むことも多かった和泉式部。救いを求める歌も詠んでいます。
原文
暗きより 暗き道にぞ 入りぬべき
はるかに照らせ 山の端の月 『拾遺和歌集』和泉式部現代語訳
もとより暗い道からさらに暗い道に入てしまう。
私が進むべき道を遠くから照らしてほしい。
山の端にかかる月よ。 - 恋を色に例えた歌
- 数多くの恋を重ね、切ない別れも経験した和泉式部。
その恋を色にたとえ、さらりと詠み上げる表現には、彼女ならではの感性が光ります。原文
世の中に 恋てふ色は なけれども
深く身にしむ ものにぞありける 『後拾遺和歌集』和泉式部現代語訳
世の中に恋という色はないけれども、恋とは染料のように深く身に染みるなのです。
- 妖艶な「乱れ髪」の歌
- 待賢門院堀河と同じように、和泉式部も同じ「乱れ髪」を題材に歌を詠んでいます。
原文
黒髪の 乱れも知らず うち伏せば
まづかきやりし 人ぞ恋しき 『後拾遺和歌集』和泉式部現代語訳
黒髪が乱れているのも気にも留めず、思い乱れて横たわっていると、かつて髪をかき分けてくれたあの人が恋しい。
- 伊勢大輔との贈答歌
- 和泉式部と伊勢大輔が彰子に仕える女房として同僚だったとき、二人は仲が良かったようで、次の贈答歌が残っています。この贈答歌は二人が出会ったときに詠まれました。
- 和泉式部の歌
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原文
思はむと 思ひし人と 思ひしに
思ひしごとも 思ほゆるかな 『和泉式部日記』和泉式部現代語訳
あなたは私を思ってくれるだろうと思った方でしたが、
私の思ったとおりです。 - 伊勢大輔の歌
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原文
君をわれ 思はざりせば われをきみ
思はむとしも 思はましやは 『和泉式部日記』伊勢大輔現代語訳
もし私があなたを思わなければ、
あなたも私を思わなかったでしょう。 - 和泉式部日記
- 和泉式部が著した日記文学。恋人だった為尊親王(冷泉天皇の第三皇子)の突然の死に悲嘆に暮れ、身分違いの恋を理由に父親から縁を切られて失意に沈む和泉式部。そんな彼女のもとに帥宮(敦道親王)から橘の花の枝が届くところから物語が始まります。帥宮と和歌を取り交わし、関係性を深めていく様子が第三者的な視点で歌物語風に綴られています。
- 祇園祭の山鉾になった恋の伝説
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和泉式部は藤原保昌から求婚された際、その本気度を試すするため「紫宸殿にある梅を一枝折ってきてほしい」と所望しました。保昌は夜の紫宸殿に忍び込み、警備の武士に矢を射かけられるリスクを負いながらも、何とか梅の枝を盗んできて、和泉式部や求婚を受け入れました。
祇園祭では、この伝説にちなんで「保昌山」という山鉾が巡行します。山鉾の保昌を見ると、手には立派な梅の枝を持っている様子を確認できます。縁結びのご利益があるとして、保昌山のお守りを求める人が多いそうです。
- 和泉式部公園
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佐賀県嬉野市塩田町にある公園。有明海を一望する小高い丘にあるの公園には、和泉式部がこの地で生まれ9歳まで過ごしたことにちなんで高さ5mの巨大なブロンズ像と歌碑が建てられています。人工芝の草スキーやアスレチックの森などの施設も併設されています。地図へのリンク
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。
雨宿りする親子は和泉式部と幼い頃の小式部内侍でしょうか。 - 一条天皇の宮廷サロン
- 和泉式部は、一条天皇の宮廷サロンで活躍しました。宮廷サロンの相関図はこちらをご覧ください。
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