日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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儀同三司母
忘れじの
ゆく末までは
かたければ
今日を限りの
命ともがな
HOW difficult it is for men Not to forget the past! I fear my husband's love for me Is disappearing fast; This day must be my last.The Mother of the Minister of State
- 54番歌
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忘れじの
ゆく末までは
かたければ
今日を限りの 命ともがな
作者:儀同三司母(生年不詳~996年)
出典:新古今和歌集 恋
- 現代語訳
- 「ずっと忘れない」という言葉は難しい約束でしょうから、その言葉を聞いた今日限りの命だったらいいのにと思ってしまいます。
- 解説
- この歌は、夫の藤原道隆が作者のもとに通い始めた頃に詠まれました。幸せの絶頂が表現されています。
- どんな人?
- 儀同三司母こと、高階貴子は卓越した漢詩の才能を持ち、高貴な女性でした。彼女は公卿の藤原道隆と結婚し、息子の伊周 、娘の定子(後に一条天皇の后)をもうけました。しかし、夫が43歳で亡くなると一気に潮目が変わります。息子の伊周、隆家は花山法王に弓矢で襲撃事件を起こし、大宰権師に左遷され、定子は落飾して尼になりました。一家は没落の運命に翻弄される中、貴子は一家の窮状を案じつつ、生涯を閉じました。
- 語句・豆知識
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- 忘れ じ の
- 忘れまいという
- ゆく末 まで は
- 将来(ずっと変わらないこと)は
- かたけれ ば
- 難しいので
- けふ を 限り の 命 と もがな
- 今日を最後にする命であってほしい
- 「命ともがな」で終わる歌
- こちらは『後拾遺和歌集』に収められている和泉式部の歌です。
今宵今宵と期待させておきながら、来ない人に対して詠まれたものです。
同じように「命ともがな」で終わりますが。こちらは悲劇の歌です。原文
今宵さへ あらばかくこそ 思ほえめ
今日暮れぬまの 命ともがな 『後拾遺和歌集』和泉式部現代語訳
今宵生きてまたこんなに辛い思いをするのなら
今日の日が暮れないうちに死んでしまいたい。 - 儀同三司
- 儀同三司とは太政大臣、左大臣、右大臣に准ずる大臣の別名。藤原伊周は准大臣に任命され、自らを儀同三司と称しました。平安時代の位階(身分)と官職についてはこちらをご参照ください。
- 藤原道隆
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平安中期の公卿。藤原兼家の長男で儀同三司母の夫。父である藤原兼家が亡くなると後を継いで関白になって朝廷を主導するもわずか5年で病に倒れて亡くなりました。死因は、過剰なアルコール摂取によって糖尿病(飲水病 )に罹患した可能性が推定されています。
- 中関白家
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貴子の夫を祖とする一族は「中関白家」と呼ばれました。道隆の父である藤原兼家が関白になって、中継ぎ的に道隆が関白になり、藤原道長が摂関政治の栄華を究めたことからそのように名付けられたと言われています。藤原道隆は一時的に権力を手にしますが、身内びいきが過ぎて公卿たちから支持を得られず、道隆の息子・伊周がさらに公卿の反感を買い、一族は没落します。
一方で藤原道長は世渡り上手で、娘を次々に立后して権力基盤を強固にしていきました。そんな道長は次の和歌を詠みました。この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の
欠けたることも なしと思へば
1018年 藤原道長(『小右記』より)この和歌は道長の娘3人全員が后になった晩のお祝いの席で詠まれました。権力者の奢りの歌だと目されることが多かったのですが、最近の研究では、「この世」は「この夜」で、后となった娘たちを月に見立て、さらに公卿たちが持つ盃と掛けて詠んだものではないかという新しい解釈が登場しています。娘たちはみな后になった。盃を交わした公卿たちは誰も欠けていない。だから一緒に娘たちを支えていこうと呼びかけた道長の親心が滲む歌だという説が出てきています。 - 長徳の変
- 藤原道隆の死後、藤原道長が内覧の宣旨 を得た後に起きた後に「長徳の変 」という政変が起こりました。藤原伊周は、恋人を花山法皇に奪われたと誤解し、弟の藤原隆家に相談しました。隆家は従者を連れて法皇の行列を襲い、法皇の袖を弓で射抜きました。この事件により伊周と隆家は左遷され、中関白家(藤原道隆の一族)は没落しました。
- 娘・定子の辞世の句
- 貴子の娘で一条天皇の皇后になった定子は第3子出産後に夭折します。自分の死を予感していた定子は辞世の句を残しています。定子の生涯と辞世の句を特集したコラムがありますので、よかったらご覧ください。
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