時雨の百人一首

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『べらぼう』第20回に登場する和歌

2025年の大河ドラマ『べらぼう』の第20回では、大田南畝(桐谷健太さん)から誘いを受けて重三郎(横浜流星さん)が狂歌の歌会に参加するシーンが描かれました。そこで詠まれた二首の歌は、百人一首を下敷きにした歌でした。

朱楽菅江(浜中文一さん)の狂歌

この和歌は、百人一首 92番歌 二条院讃岐の歌を元に作られています。

原文

わがこいうなぎおけえぬおけのうちの
ぬらぬらふらふら かわもなし
朱楽菅江(浜中文一さん)

現代語訳

好物の鰻もおらねば、愛しい女も今は去った。
私だけが乾く間もなく濡れ彷い歩く

原文

わがそで潮干しおひえぬ おきいし
ひとこそらね かわくまもなし 百人一首 92番歌 二条院讃岐

現代語訳

私の袖は潮干のときも見えない沖の石のように、人に知られることはないけれども、涙で濡れて乾く暇もない。

土山宗次郎/軽少ならん(栁俊太郎さん)の狂歌

この和歌は、百人一首 97番歌 権中納言定家の歌を元に作られています。

原文

ひとつほどうら夕鰻ゆううなぎ
くやもしおか タレまどいつつ
軽少ならん(栁俊太郎さん)

現代語訳

来てくれない人を待つうちに恨む夕鰻は塩を付けて焼かれるのだろうかタレを付けて焼かれるのだろうかと思い乱れる。

原文

ひと松帆まつほうらゆうなぎに
くやもしほの もこがれつつ 百人一首 97番歌 権中納言定家

現代語訳

来てくれない恋人を待ち続け、夕凪どきに松帆の浦で焼かれる藻塩のように我が身も恋に焦がれています。

四方赤良/大田南畝(桐谷健太さん)の狂歌

この和歌は、百人一首とは関係ありませんが、巧みな言葉遊びが織り込まれている歌です。鰻の縁語である「穴」と感嘆詞の「あな」を掛け、「山の芋変じて鰻となる」ということわざの「芋」と恋人の意味を持つ「妹背」を掛け、切り裂かれる鰻と恋仲を引き裂かれる妹背を掛け、思い焦がれる思いと蒲焼になって焼かれる鰻の「焦がす」を掛けています。

原文

あなうなぎ いづくのやまの いもとせを
さかれてのちがすとは
四方赤良/大田南畝(桐谷健太さん)

現代語訳

どこの山の芋が成ったかわからないが、うなぎが恋仲を引き裂かれるように身を割かれ、蒲焼になりながらも相手を想って思い焦がれているとはああ酷いことよ。

『べらぼう』第14回に登場する和歌

2025年の大河ドラマ『べらぼう』の第14回では、遊郭の主人たちが百人一首をパロディにした和歌を詠み合う場面がありました。江戸時代には、各地に寺子屋という学びの場があり、読み書きや計算などが教えられていました。その中で、百人一首は教材として使われていたため、当時の人々にとって百人一首はとても身近な存在だったようです。

りつ(安達祐実さん)の和歌

この和歌は、百人一首 9番歌 の歌を元に作られています。

原文

みせ場所ばしょ うつらんとてか 家田屋いえだや
わが身世みよにふる ながめせましに
りつ(安達祐実さん)

現代語訳

店を家田のとこに移すのかい!?
もう狭くなっちゃったもんねぇ

原文

はないろは うつりにけりな いたらに
わがよにふる ながめせしまに 百人一首 9番歌 小野小町

現代語訳

美しかった桜が長雨に打たれて空しく色あせてしまった。私の容色も物思いに沈んで、この世を過ごしているうちに衰えてしまった。

重三郎(横浜流星さん)の和歌

この和歌は、百人一首 86番歌 西行法師の歌を元に作られています。

原文

なげけとて 茶屋ちゃや本屋ほんやまど わする
かこちがおなる わが馴染なじみかな
蔦屋重三郎(横浜流星さん)

現代語訳

茶屋か本屋かわかんないって
客も困ってんすよ

原文

なげけとて つきやはものおもする
かこちがおなる わがなみだかな 百人一首 86番歌 西行法師

現代語訳

嘆けと言って月が私に物思いをさせるのだろうか。そうではない。月に誘われるそぶりで流れる私の涙かな。

丁子屋長十郎(島英臣さん)の和歌

この和歌は、百人一首 48番歌 源重之の歌を元に作られています。

原文

かねいた浅草紙あさくさがみおのれ
やぶけてものを おもうことかも
丁子屋長十郎(島英臣さん)

現代語訳

金はどうすんだい!?
破綻してからじゃ遅いんだぜ!

原文

かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ
くだけてものおもころかな 百人一首 48番歌 源重之

現代語訳

風が激しく吹くので、岩に打ち寄せる波がひとりでに砕け散るように、私だけ心を砕かれて、物思いをするこの頃ですよ。

蔦屋重三郎(横浜流星さん)の和歌

この和歌は、百人一首 48番歌 壬生忠見の歌を元に作られています。

原文

富本本とみもとぼん はまだき ちにけり
稽古本けいこぼんもと おもそめしか
蔦屋重三郎(横浜流星さん)

現代語訳

富本本で名が売れたので、次は稽古本をと考えてます!

原文

こいてふちょう はまだき ちにけり
ひとしれずこそ おもそめしか 百人一首 41番歌 壬生忠見

現代語訳

恋をしているという噂が早くも立ってしまった。気づかれないように心の中で密かに想い始めたばかりなのに。

扇屋宇右衛門(山路和弘さん)の和歌

この和歌は、百人一首 99番歌 後鳥羽院の歌を元に作られています。

原文

ならばよし ならば後押あとおうれひなく
吉原よしわらに ものおも 扇屋宇右衛門(山路和弘さん)

現代語訳

ならいいんじゃないかい?
吉原のためにも後押ししてやるよ

原文

ひともをし ひともうらめし あきなく
おもおも百人一首 99番歌 後鳥羽院

現代語訳

時には人が愛しく、時には人が恨めしく思われる。つまらなく世の中を思うがゆえに物思いに沈む私には。