時雨の百人一首

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和歌ブームのきっかけ
『古今和歌集 仮名序』

平安時代は和歌全盛の時代と思われがちですが、平安初期において和歌はまだ盛んではありませんでした。しかし、遣唐使の廃止を機に、日本独自の文化「国風文化」が花開きます。こうした流れの中で、醍醐だいご 天皇は長らく衰退していた和歌の復興を図り、『古今和歌集』の編纂を命じました。編纂を主導した紀貫之きのつらゆき は、この歌集の冒頭に平仮名で書かれた序文『仮名序かなじょ 』を著します。これは、公式文書に平仮名が使用された初めての例であり、和歌の復興を象徴する出来事でした。漢詩に傾倒していた貴族たちも次第に和歌に興味を持ち始め、やがて和歌が一大ムーブメントを引き起こすきっかけとなりました。

ここでは『仮名序かなじょ』の有名な冒頭部分をご紹介します。この中で紀貫之きのつらゆき は、和歌は「心」から生まれ、見たり聞いたりする景物に託して、その情景や心情を「言葉」で表現するものであると述べています。

【原文】

やまとうたは、人の心を種として、
よろずこととぞなれりける。
世の中にある人、
ことわざしげきものなれば、
心に思ふことを、
見るもの聞くものにつけて、
言ひ出せるなり。
花に鳴くうぐいす
水に住むかわずの声を聞けば、
生きとし生けるもの、
いづれか歌をよまざりける。
力をも入れずして
天地あめつちを動かし、
目に見えぬ鬼神おにがみをも
あはれと思はせ、
男女のなかをも和らげ、
たけ武士もののふの心をも
なぐさむるは歌なり。

【現代語訳】

和歌とは、人の心を種として、
様々な言葉になったものである。
世の中にいる人、
さまざまな出来事に関わるので、
心に思うことを、
見るもの、聞くもの託して、
歌として言い表すのである。
花に鳴く鶯、
水に住む蛙の声を聞けば
この世に生きるものすべて
どれが歌を詠まないだろうか。
力を入れずに
天地の神々を動かし、
目に見えない精霊たちをも
しみじみと感動させ、
男女の仲をも親しくさせ、
荒々しい武士の心をも
慰めるのは和歌なのである。
カジカガエル

水に住む蛙は「カジカガエル」という蛙です。写真のとおり姿は地味ですが、鳥のように美しく鳴きます。カジカガエルは漢字で「河鹿蛙」と書きます。雄の鹿の鳴き声に似ていることにちなんで名付けられたようですが、実際には鳥のさえずりの方が近いように思われます。

カジカガエルの鳴き声を聞く

カジカガエルの音声:ミヤノーヴァ


古今和歌集の撰者

古今和歌集の撰者は、いずれも百人一首に登場する歌人です。
彼らの歌もぜひご覧ください。

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