時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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凡河内躬恒おおしこうちのみつね

心当こころあてに
らばや
初霜はつしも
おきまどせる
白菊しらぎくはな

壬生忠岑
凡河内躬恒の挿絵

IT was a white chrysanthemum I came to take away; But, which are coloured, which are white, I'm half afraid to say, So thick the frost to-day! Mitsune Oshi-kochi

29番歌
心当こころあてに らばや 初霜はつしも
おきまどせる 白菊しらぎくはな
作者:凡河内躬恒おおしこうちのみつね(生没年不詳)
出典:古今和歌集
現代語訳
心して手折たおろうして折れるものだろうか。初霜が降りて、見分けにくくなっているほど真っ白で美しい幻想的な白菊の花を。
解説
この歌は「心当てに」を「当てずっぽうに」と訳すか「心して」と訳すかで解釈が大きく変わります。「当てずっぽうに」と訳せば、白菊が初霜に紛れて区別がつかないことが強調されますが、「心して」と訳せば、これほど美しい白菊を手折ることなどできようかという解釈になります。
どんな人?
凡河内躬恒は官位は高くありませんでしたが、叙景歌の才能が高く、紀貫之と並び称される当代きっての歌人です。『古今和歌集』の撰者にも選ばれ、三十六歌仙にも選ばれています。
語句・豆知識
心あて
「当てずっぽうに」という意味と「心して」という意味があります。
折ら 折ら
折ったら折れるだろうか
初霜
初霜が(降りて)
おきまどはせ
見分けがつかなくなる
白菊
白菊の花
重用の節句
菊は奈良時代に中国から伝来したといわれています。当初は薬用植物として渡来しましたが、後に観賞用として宮中で人気を呼びました。平安時代の宮中では「重用の節句」と呼ばれる風習が中国から伝わり、菊は和歌によく詠まれました。
古今和歌集の撰者
古今和歌集の撰者 紀友則 凡河内躬恒 紀貫之 壬生忠岑

図の中にあるの番号が付いている人物をクリックすると、その歌人のページに移動します。

『古今和歌集』は醍醐天皇の勅命により編纂された初の勅撰和歌集です。紀貫之、紀友則、壬生忠岑、凡河内躬恒の4名が撰者となり、万葉集に掲載されなかった歌や当時の歌など1500首を集めて編纂しました。913年頃に完成しましたが、紀友則は完成前に亡くなりました。

幼い子の成長を憂えた歌
次の歌は、興風が何かに思い悩んでいたときに幼い子を見て詠んだ一首です。

原文

いまさらに なにひいづらむ たけ
ふししげき とはらずや 『古今和歌集』凡河内躬恒

現代語訳

今更どうしてこの憂き世に育つのだろう。竹の子のようにすくすくと育つこの子は。辛いことが多い世であることを知らないのだろうか。

梅の香りを詠んだ歌

次の歌は、『古今和歌集』に収められている凡河内躬恒の歌です。
詞書に「月夜に梅の花を折りてと人のいひければ、折るとてよめる」と記されており、この歌は、月夜に梅を折ってほしいと言われたときに、詠まれました。

原文

月夜つきよには それともえず うめはな
をたづねてぞ るべかりける 『古今和歌集』凡河内躬恒

現代語訳

月夜には、梅の花がよく見えませんが、香りをたどれば、咲いている場所がわかるのですよ。

白い花が雪に紛れる歌

次の歌は、『古今和歌集』に収められている紀友則の歌です。
この歌では、梅の花が雪に紛れて見分けがつかない様子が詠まれています。凡河内躬恒の歌にも似ていて、白い花が雪と混じり合うという表現は、当時人気のある詠み方だったようです。

原文

ゆきれば 木毎きごとはなきにける
いづれをうめと わきてらまし 『古今和歌集』紀友則

現代語訳

雪が降ると、どの木にも白い花が咲いたように見える。
雪と紛れて見分けがつかないので、どの木を梅の木であると区別して手折るとよいだろうか。

正岡子規の批評
正岡子規は『歌よみに与ふる書』の中で、凡河内躬恒の歌について「この躬恒の歌、百人一首にあれば誰も口ずさみ候へども、一文半文のねうちもこれなき駄歌に御座候。この歌は嘘の趣向なり、初霜が置いた位で白菊が見えなくなる気遣きづかい無之候。」と批判しました。これは、写実的な和歌を追求した正岡子規ならではの評価だと考えられます。しかし、景物を何か別のものに見立てる「見立て」という技法は、『古今和歌集』の時代に発展したものです。
三十六歌仙
凡河内躬恒は三十六歌仙の1人。
三十六歌仙の一覧ページはこちらをご覧ください。

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