時雨の百人一首

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Translated by WILLIAM N. PORTER
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源俊頼朝臣みなもとのとしよりあそん

かりける
ひと初瀬はつせ
やまおろしよ
はげしかれとは
いのらぬものを

源俊頼朝臣

はけしかれ
とはいのら
ぬものを

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うか

74番歌
かりける ひと初瀬はつせやまおろしよ
はげしかれとは いのらぬものを
作者:源俊頼朝臣みなもとのとしよりあそん(1055年~1129年)
出典:千載和歌集
現代語訳
つれないあの人が私になびくように初瀬の観音様に祈りこそしましたが、初瀬の山おろしよ。お前のように冷たく手厳しくあれとは祈ってもいないのに。
解説
『千載和歌集』の詞書に「権中納言俊忠の家に、恋の十首詠み侍る時、祈れども逢わぬ恋といへる心を詠める」とあり、この歌は、藤原俊成の父・藤原俊忠の家で催された歌会で「祈れども逢わざる恋」というお題で詠まれました。歌に出てくる「初瀬」は奈良県桜井市にある地名で、観音信仰で有名な長谷寺があります。
どんな人?
源俊頼は革新的な歌風で知られ、伝統的な歌風の藤原基俊と共に院政期の歌壇の双璧でした。白河院の命を受け『金葉和歌集』の撰者に携わりました。多くの歌会で、作者や判者はんじゃ として参加しました。
語句・豆知識
憂かり ける
つれなかったあの人を
初瀬 山おろし
初瀬の山おろしよ
はげしかれ
激しくなれ とは
祈ら ものを
祈っていないのに
源俊頼の系図
源俊頼の系図 三条右大臣 藤原朝忠 源経信 俊恵法師

の番号が付いている人物をクリックすると、その歌人のページに移動します。

源俊頼は宇多天皇を祖とする宇多源氏の子孫です。

源俊頼の父は源俊頼で、 孫は俊恵法師です。
3代にわたって百人一首に選ばれています。

源俊頼は、和歌や篳篥に優れ、歌人や楽人として活躍しました。官位は従四位上・木工頭もくのかみ でしたが、晩年は官職に恵まれず、散位のまま過ごしました。

隠国の里・初瀬
隠国こもりく」とは、「初瀬」を導く枕詞です。初瀬は三方を山で囲また山深い場所にあり、俗世から隔絶され、神々が宿る神秘なイメージがあったようです。また、初瀬街道が伊勢神宮に通じることも神聖なイメージを強固にしているようです。次の歌は柿本人麻呂が天皇に仕えた土形ひじかたの娘子おとめという采女が亡くなったときに詠まれたと言われています。

原文:

隠国こもりく泊瀬はつせやま山際やまのま
いさよふくもいもにかもあらむ 『万葉集』柿本人麻呂

現代語訳:

初瀬の山の、山のあたりに漂っている雲は
あの娘子であろうか。

長谷寺
長谷寺
663highland, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

長谷寺は奈良県桜井市初瀬の山の中腹にそびえる奈良時代創建の古刹です。この寺の本尊である十一面観音像は10mを超える巨大な姿です。平安時代は現世でのご利益を期待する観音信仰が盛んで、多くの人々が「長谷詣」といって長谷寺の参拝に訪れました。

百人一首に収められている紀貫之の「人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひける」という歌も長谷詣にちなんだものです。

観音信仰
観世音菩薩を信仰して救われたり現世利益を得ようとする信仰で、平安時代に盛んになりました。長谷寺(奈良県)、石山寺(滋賀県)、清水寺(京都府)は霊験れいげん あらたかである(ご利益が著しい)と多くの人が訪れたといわれています。
篳篥の名手だった源俊頼
篳篥

源俊頼は、篳篥ひちりき の名手で堀河天皇の楽人としても活躍しました。篳篥は、雅楽の演奏で主旋律を担当する縦笛で、長さは約18㎝と小さな楽器ですが、大きな音が出ます。

堀河百首
『堀河百首』は、堀河天皇のときに源俊頼が企画し、源国信が当時の代表的歌人に詠進させた百首歌。春20、夏15、20、冬15、恋10、雑20題の合計100題あり、1人の歌人が各題1首ずつ詠んでいます。後代の百首歌の規範とされました。
散木奇歌集
散木奇さんぼくき歌集』は、源俊頼の家集です。全10巻あり、約1600首が収められています。『散木奇さんぼくき 歌集』の「散木」は、木工頭を務めた源俊頼が謙遜して命名したとされ、「奇」は新奇な歌の意を表しているとされています。
俊頼髄脳
『俊頼髄脳』は、源俊頼による歌論書(歌の手引書)です。関白・藤原忠実が、娘で鳥羽上皇の皇后となる藤原泰子のために書かせたといわれています。
五月雨に重ねた心情を詠んだ歌

原文:

おぼつかな いつかるべき わびひと
おもこころ五月雨さみだれそら 『千載和歌集』源俊頼

現代語訳:

おぼつかないことだ。
いつか晴れるだろうか、気落ちしている私の心は。
五月雨の空はいつか晴れるだろうが。

百人秀歌に採られた歌

『百人一首』のもとになったとされる『百人秀歌』では、同じ歌人の場合、同じ歌が収録されていますが、源俊頼だけ異なる歌が採られています。次の歌は『百人秀歌』に収められている源俊頼の作品です。

原文:

山桜やまざくら さきそめしより 久方ひさかた
くもゐにみゆる たき白糸しらいと 『百人秀歌』源俊頼

現代語訳:

山桜が咲き始める頃から遠くに見える山には
天から垂れ下がった糸のように山桜が並んで見える

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