時雨の百人一首

トップ コラム アプリ 和歌の一覧・検索
罫線

日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

日本語

English

音声

小式部内侍こしきぶのないし

大江山おおえやま
いくみち
とおければ
まだふみもみず
あま橋立はしだて

小式部内侍
小式部内侍

SO long and dreary is the road, That I have never been To Ama-no-Hashidate; Pray, how could I have seen The verses that you mean?Lady-in-Waiting Ko-shikibu

60番歌
大江山おおえやま いくみちとおければ
まだふみもみず あま橋立はしだて
作者:小式部内侍こしきぶのないし(生年不詳~1025年)
出典:金葉和歌集
現代語訳
大江山も(母の住む丹後に行く)生野の道も遠いので、まだ天橋立の地に足を踏み入れたこともありませんし、母からの手紙も見ておりません。
解説
この歌は、ある歌合にて藤原定頼から「歌の名手であるお母さん(和泉式部)に歌を代筆してもらったのですか?」とからかわれて、即興で詠んだものです。藤原定頼は返歌できずに急いでその場を去ったといわれています。大江山、生野、天橋立は、母の和泉式部が住んでいた京都府北部の丹後へ向かう途中の地名です。
どんな人?
小式部内侍は、母の和泉式部の名前を取って「小式部」という女房名で呼ばれました。母と同じく中宮・彰子に仕えましたが、20代で出産後に夭逝。『和泉式部集』には早世した娘に捧げた哀傷歌があります。
枕詞なし掛詞縁語序詞なし本歌取りなし歌枕
枕詞
枕詞とは、特定の語句を導き出すための5文字の言葉です。導き出す語句の直前に置かれ、語調を整えたり、ある種の情緒を添えます。

この歌には枕詞はありません。

掛詞
掛詞とは、同音異義語の語句(景物と心情)を重ねて用いることで、言葉の連想により世界を広げる技法です。

「いく野」は地名の「生野」と「行く」の掛詞です。「ふみ」は手紙の「文」と橋板を踏みしめるの「踏み」の掛詞です。

縁語
縁語とは意味的に関連の深い語句を用いることで、言葉の連想により、味わい深いものにする技法です。

「踏み」と「橋」が縁語です。

序詞
序詞とは、言いたい言葉を導き出すために前置きされる言葉のことです。序詞は歌人が独自に作成し、7文字以上で構成されます。比喩によるもの、掛詞にかかるもの、同音を繰り返すものの3種類があります。

この歌には序詞はありません。

本歌取り
本歌取りとは、古歌の一部を借用することで、古歌の心情や趣向を取り込む技法のことです。本歌は左記のとおりです。

この歌は本歌取りしていません。

語句・豆知識
大江山
大江山も
いく野
生野を通って行く道も
遠けれ
遠いので
まだ ふみ 天橋立
まだ天橋立に踏み入れていませんし、母からの手紙も見ていません。
大江山、生野、天橋立の位置
地名の位置

歌に登場する地名の位置を示した地図です。

天橋立は京都府北部、日本海の宮津湾にあります。歌が詠まれたとき、小式部内侍の母である和泉式部は、夫の藤原保昌 が丹後守を務めていたため、夫に付いて丹後国に滞在していました。

歌に詠まれた「大江山」と「いく野の道」は、京都府福知山市内にあります。

大江山
大江山

京都府丹後半島の付け根に位置する連山で、標高は832mです。鬼が住む伝説が残っています。
地図へのリンク

「いく野の道」に該当する細野峠
生野の道(細野峠)
写真提供:福知山市

「細野峠」は京都府福知山市三和町にある全長約2kmの峠です。歌に詠まれた「いく野の道」はこのあたりを指すようです。平成8年には「全国歴史の道百選」に選ばれました。
ところどころで見られる石畳が趣深く、当時の面影を残しています。
地図へのリンク

天橋立
天橋立

京都府宮津市にある景勝地。日本三景の一つです。地図へのリンク

小式部内侍の系図
小式部内侍の系図 赤染衛門 和泉式部

画像上の番号が付いている人物をクリックすると、その歌人のページに移動します。

小式部内侍は和泉式部の娘で、親子で一条天皇の中宮・彰子に仕えました。

教通(藤原道長の五男)との間には僧正静円、範永との間には娘をもうけました。また、藤原公成との間に頼忍阿闍梨を出産しましたが、出産時に20代で夭折しました。

鈴木春信の浮世絵
鈴木春信による浮世絵
Suzuki Harunobu, CC0, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・鈴木春信による浮世絵です。小式部内侍に袖をつかまれた中納言定頼の様子を描いたものです。小式部内侍が即興で詠んだ歌があまりに見事だったので、定頼はばつが悪そうにしています。

歌川国芳の『百人一首之内』
歌川国芳による浮世絵
British Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。鬼がいるので国芳は丹後半島の付け根に位置する「大江山」を描いていることがわかります。

次の和歌へ

前の和歌へ