日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
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大江千里
月みれば
ちぢにものこそ
悲しけれ
わが身一つの
秋にはあらねど
THIS night the cheerless autumn moon Doth all my mind enthrall; But others also have their griefs, For autumn on us all Hath cast her gloomy pall.Chisato Oye
- 23番歌
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月みれば
ちぢにものこそ
悲しけれ
わが身一つの 秋にはあらねど
作者:大江千里(生没年不詳)
出典:古今和歌集 秋
- 現代語訳
- 月を見るとあれこれと悲しくなります。私ひとりだけに訪れた秋ではないのですが。
- 解説
- この歌は、白居易の『白氏文集』の詩 『燕子楼』の 一節を題材に作られました。「ちぢに」の「千」、「私ひとり」の「一」という数字の大小を対応させており、 漢詩特有の対句の技法を和歌に応用しています。
- どんな人?
- 大江千里は、参議・大江音人の子で、学者の家系に生まれました。 文章博士で、 漢籍に詳しく、和歌にも秀でていました。 漢詩句を題材に和歌を詠んだ『句題和歌』を 894年に宇多天皇に献上しています。ちょうど菅原道真が遣唐使廃止を建議した年でした。 漢詩から和歌に移行しようとする時代を象徴する人物と言えそうです。 官位は兵部大丞で従六位上相当で微官に終わりました。
- 語句・豆知識
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- 月 見れ ば
- 月を見ると
- ちぢに
- 際限なく
- もの こそ 悲しけれ
- 物事が悲しくなる
- わ が 身 一つ の
- 私一人だけの
- 秋 に は あら ね ど
- 秋ではないのだけれども
- 白氏文集の燕子楼の詩
- 大江千里は、この歌を題材に百人一首の歌を詠みました。
原文
燕子楼 中霜月夜
秋来只為一人 長 『白氏文集 卷十五 燕子楼』白居易現代語訳
燕子楼という建物で過ごす、霜のように冴えた月、
秋の夜は私ひとりだけのために長い - 朧月夜の歌
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源氏物語で朧月夜が「朧月夜に似るものぞなき」と口ずさんでいる場面がありますが、
次の歌が元になっています。
『白氏文集』の詩を題材にした大江千里の作品です。原文
照りもせず 曇りも果てぬ 春の夜の
朧月夜にしくものぞなき 『新古今和歌集』大江千里現代語訳
照りもしないし、曇りきることもない春の夜の
朧月夜の美しさにかなうものはない。 - 鴨長明の本歌取り
- 次の歌は、大江千里の「月見れば…」の歌を鴨長明が本歌取りしたものです。「月前松風」という題で詠まれました。
鴨長明は『方丈記』の作者で、俊恵法師に和歌を師事した人物です。原文
ながむれば 千々にもの思ふ 月にまた
わが身ひとつの 峰の松風 『新古今和歌集』鴨長明現代語訳
物思いをさせる月を眺めていると、さらに私一人にだけに寂しい峰の松風が吹く。
- 白居易
- 唐代中期の漢詩人。白楽天の呼び名でも知られています。 わかりやすい表現と流れるような文体が日本でも人気を呼び、 平安時代に『白氏文集』愛読する人が多かったようです。 源氏物語や枕草子に『白氏文集』の引用が見られており、 平安文学に大きな影響を与えています。 藤原公任が編纂した『和漢朗詠集』にも 白居易の漢詩が多く収められています。
- 大江千里の系図
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『尊卑分脈』や『大江氏系図』によると、大江氏の祖は平城天皇になっていますが、 これは大江氏が自分たちの家系を尊くみせようとしたといわれており、間違いかもしれません。 大江音人のときに「大枝」から「大江」に改められました。 大きな川(=江)のように末永く繁栄するようにという願いが込められているといわれています。
大江氏は菅原氏と同様に多くの学者を輩出してきた家柄として 菅家(菅原家)、 江家(大江家)と並び称されています。 大江千里も文章博士になっています。
- 阿保親王
- 薬子の変(くすこのへん)
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天皇を退位した平城上皇が藤原薬子にそそのかされて政権回復を図り、
弟である嵯峨天皇と対立した事件。
近年では「平城上皇の変」や「平城太上天皇の変」と呼ばれることもあります。
この政変により、平城上皇の第一皇子・阿保親王は連座して大宰権帥に左遷されました。
その後、阿保親王は息子たちの臣籍降下を上奏し、行平や業平は在原の姓を賜りました。
また、大江音人は この政変をきっかけに大枝本主の養子になったといわれています。 - 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。
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