時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

日本語

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音声

大納言経信だいなごんつねのぶ

ゆうされば
門田かどた稲葉いなば
おとれて
あしのまろやに
秋風あきかぜ

大納言経信
大納言経信

THIS autumn night the wind blows shrill, And would that I could catch Its message, as it whistles through The rushes in the thatch And leaves of my rice-patch.The First Adviser of State Tsune-nobu

71番歌
ゆうされば 門田かどた稲葉いなば おとれて
あしのまろやに 秋風あきかぜ
作者:大納言経信だいなごんつねのぶ(1016年~1097年)
出典:金葉和歌集
現代語訳
夕方になると、門前の稲の葉は音を立て、ついでに葦葺きのこの庵にも秋風が吹きつけることだ。
解説
金葉集の詞書に「師賢もろかた朝臣梅津うめづに人々まかりて、田家秋風といへることを詠める」とあり、この歌は経信の親戚・源師賢の梅津にある別荘で催された歌会で「田家の秋風」という題で詠まれました。当時は田園趣味が流行し、洛外の田舎に山荘を建てる貴族が多くいました。
どんな人?
経信は、宇多天皇の皇子・敦実親王のひ孫です。漢詩や和歌、管弦に優れ、博識多芸でした。白河院の大堰川おおいがわ行幸の際に和歌、漢詩、琵琶の3つの舟に分乗し才能を競う舟遊びが行われた際、遅れてきた経信は、どの舟でも構わないから乗せてほしいと言って多才ぶりをアピールしました。彼の多才ぶりは藤原公任と並んで「三舟の才」と称されました。
枕詞なし掛詞縁語なし序詞なし本歌取りなし歌枕なし
枕詞
枕詞とは、特定の語句を導き出すための5文字の言葉です。導き出す語句の直前に置かれ、語調を整えたり、ある種の情緒を添えます。

この歌には枕詞はありません。

掛詞
掛詞とは、同音異義語の語句(景物と心情)を重ねて用いることで、言葉の連想により世界を広げる技法です。

この歌に掛詞はありません。

縁語
縁語とは意味的に関連の深い語句を用いることで、言葉の連想により、味わい深いものにする技法です。

この歌には縁語はありません。

序詞
序詞とは、言いたい言葉を導き出すために前置きされる言葉のことです。序詞は歌人が独自に作成し、7文字以上で構成されます。比喩によるもの、掛詞にかかるもの、同音を繰り返すものの3種類があります。

この歌には序詞はありません。

本歌取り
本歌取りとは、古歌の一部を借用することで、古歌の心情や趣向を取り込む技法のことです。本歌は左記のとおりです。

この歌は本歌取りしていません。

歌枕
歌枕とは、和歌に登場する景勝地のことです。

この歌に歌枕はありません。

語句・豆知識
され
夕方になると
門田 稲葉
門前の田の稲の葉、門の近くの田の稲の葉
おとづれ
音を立てて
まろや
葦で葺いた粗末な家に
秋風 吹く
秋風が吹く
源経信の系図
源経信の系図 三条右大臣 藤原朝忠 源俊頼 俊恵法師

の番号が付いている人物をクリックすると、その歌人のページに移動します。

源経信は宇多天皇を祖とする宇多源氏の子孫です。

親戚・源師賢の梅津(京都市右京区梅津、太秦うずまさの南、桂川の東岸)にある別荘で歌会が催されました。百人一首に選ばれた歌は、その歌会で詠まれたものです。

息子に源俊頼、孫に俊恵法師がおり、
3代にわたって百人一首に選ばれています。

宇治川の氷魚を詠んだ歌
次の歌は『金葉和歌集』に収められている源経信の歌です。
氷魚は鮎の稚魚で、網代は氷魚を獲る漁の道具で、宇治川の冬の風物詩でした。

原文

つききよ瀬々せぜ網代あじろに よるひをは
玉藻たまもゆる こおりなりけり 『金葉和歌集』源経信

現代語訳

清らかな月に照らされて、瀬々に仕掛けられた網代に寄る氷魚は、藻に凍りつく氷のようにきらめいている。

住吉で詠まれた叙景歌
次の歌は『後拾遺和歌集』に収められている源経信の歌です。住吉(=現在大阪市住吉区)はかつて白砂青松の風光明媚な場所で、後三条院の住吉への御幸に際して詠まれました。

原文

おきかぜ きにけらしな 住吉すみよし
まつのしづを あらふ白波しらなみ 『後拾遺和歌集』源経信

現代語訳

沖で風が吹いたようだ。住吉の岸辺に生えている松の下枝に届くほどの白波が立っている。

葛飾北斎による浮世絵
葛飾北斎による木版画
National Diet Library, Public domain, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。百人一首の歌を乳母がわかりやすく絵で説明するという趣旨で制作されたものです。

奥の方に描かれた雁の群れを仰ぎ見る人。間もなく秋が訪れる農村の風景が描かれています。

歌川国芳による木版画
British Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。この浮世絵は、次の逸話に基づいて描かれています。

経信が紀貫之の「から衣 うつ声きけば 月きよみ まだねぬ人を 空にしるかな」(現代語訳:衣を打つ音が響く。秋の月が清らかな夜空の下、まだ寝ていない人がいるのだ。その人も、この月を見上げるだろうか。)という歌をつぶやきました。

すると、風流を好む朱雀門院の鬼がやってきて「北斗星前横旅鴈 南楼月下擣寒衣」(現代語訳:北斗星の前を雁が飛んで行くのが見える。南の楼閣では、夜も更けて月がでているのに、冬のための衣を柔らかくするために砧で打つ音が響いている。)という漢詩を詠んだそうです。

大堰川
大堰川

大堰川おおいがわ は、京都・嵐山の美しい地域を流れる川で、桂川とも呼ばれています。平安貴族たちはこの川で船遊びをしていました。

屋形船に乗って四季折々の嵐山の景色を楽しむ観光は現在も人気です。

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