日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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前大僧正行尊
もろともに
あはれと思へ
山桜
花よりほかに
知る人もなし
IN lonely solitude I dwell, No human face I see; And so we two must
sympathize, Oh mountain cherry tree;
I have no friend but thee.The
Archbishop Gyoson
- 66番歌
- もろともに
あはれと思へ
山桜
花よりほかに 知る人もなし
作者:前大僧正行尊(1055年~1135年)
出典:金葉和歌集 雑
- 現代語訳
- お互いにしみじみと愛しく思っておくれ山桜よ。心を通い合わせられる相手は他にいないのだから。
- 解説
- 『金葉和歌集』の詞書に「大峰にて思ひがけず桜の花を見て詠める」と書かれています。行尊は、吉野から熊野にかけて広がる大峰山の奥深くで山伏修行に励んでいました。孤高に咲く桜は、厳しい修行を耐え抜く己と重なり、まるで仲間を見つけたかのような気持ちだったのかもしれません。
- どんな人?
- 行尊は三条院の曽孫で、10歳で父を亡くし、12歳で円城寺 (三井寺)で出家し、密教を学びました。その後、大峰山や熊野などの修験道で山伏修行を積み、三井寺の長吏(長官に相当)や天王寺別当(長官に相当)などを務め、71歳で大僧正に叙せられました。
- 語句・豆知識
-
- もろともに
- 一緒に
- あはれ と 思へ
- しみじみと愛しく思っておくれ
- 山桜
- 山桜よ
- 花 より ほか に
- 花以外に
- 知る 人 も なし
- 共感し合える人もいないのだから
- 行尊の相関図
-
行尊は三条院の曽孫にあたります。
天皇の身体を護持する護持僧 として、白河天皇、鳥羽天皇、崇徳天皇に仕えました。
- 『海に眠るダイヤモンド』に登場
-
百人一首に採られた行尊の「もろともに あはれと思へ 山桜」の歌が2024年秋のTBSドラマ『海に眠るダイヤモンド』の第3話に登場していました。ドラマの舞台は、現在では軍艦島として知られる長崎の端島です。
端島出身で、今は東京で会社の社長を営む年老いた女性が歌を諳んじた後、こう語ります。共に懐かしんでおくれ、山桜よ。
お前以外に本当の私の心を知ってくれるものはいないのだから。
あんたが私をわからなくても、
私があんたをわかってやれなくてもそれは仕方がない。
誰の心にも山桜があるんだ。歌の解釈は十人十色で興味深く、厳しい人生を生き抜いた女性の力強さが歌とともに心に響く魅力的なシーンでした。
- 修行をしていたときに詠んだ歌
- 『新古今和歌集』の詞書によると、この歌は行尊が山で修行していた春の暮れに詠んだものとされています。
行尊が住んでいた山里の草庵には、春になると花を愛でに人が訪れることがあったのかもしれません。
その賑わいもやがて去り、春の終わりを迎えた静けさが、彼に一層の寂しさを感じさせたのでしょう。原文
木のもとの すみかも今は 荒れぬべし
春し暮れなば 誰か訪ひこむ 『新古今和歌集』行尊現代語訳
木の下の草庵ももうきっと荒れるだろう。春が暮れてしまったら、誰が訪れてこよう。 - 円城寺(三井寺)
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滋賀県大津市にある天台寺門宗の総本山。一般には三井寺として知られています。行尊は12歳のときに、このお寺で出家し、密教を学びました。
地図へのリンク - 大峰山脈
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近畿の屋根といわれる大峰山脈。行尊はこの大峰山脈の修験道で修行していたときに、山桜に出会いました。地図へのリンク
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