日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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右近
忘らるる
身をば思はず
誓ひてし
人の命の
惜しくもあるかな
MY broken heart I don't lament, To destiny I bow; But thou hast broken solemn oaths,— I pray the Gods may now Absolve thee from thy vow.Ukon
- 38番歌
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忘らるる
身をば思はず
誓ひてし
人の命の 惜しくもあるかな
作者:右近(生没年不詳)
出典:拾遺和歌集 恋
- 現代語訳
- 忘れ去られる私は構わないのですが、私を愛すると神に誓ったあなたが神罰によって命を落とさないか惜しく思われることです。
- 解説
- この歌は、神に誓って愛すると言った恋人が自分を捨てたので、神罰が下らないか心配という内容です。相手は恐怖におののいたかもしれません。『大和物語』によると、相手は権中納言敦忠でした。彼は37歳で夭折していますが、神罰が下ったのでしょうか。
- どんな人?
- 右近は醍醐天皇の中宮・穏子に仕えた女房です。右近という名前は、彼女の父親が右近衛少将という官職に就いていたことに由来しています。『大和物語』では、様々な男性と恋に落ちる様子が描かれており、恋多き女性だったことがわかります。
- 語句・豆知識
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- 忘ら るる
- 忘れられる
- 身 を ば 思は ず
- 自分自身のことは何とも思わない。
- 誓ひ て し
- 誓った
- 人 の 命 の
- あの人の命が
- 惜しく も ある かな
- 惜しまれてならないわ
- 右近の系図
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右近の名前は父親である藤原季縄の官職が右近衛少将だったことに由来しています。
醍醐天皇の中宮・穏子に女房として仕え、恋多き女性歌人として知られていました。
右近の「忘らるる…」の歌は藤原敦忠(権中納言敦忠)に贈られた歌だとされています。彼女の歌の真意は敦忠を心配するものか、自分を捨てた敦忠を呪うものか明らかではありません。葛飾北斎は敦忠に関する百人一首の興味深い浮世絵を作っています。ぜひご参照ください。
- 清少納言の「忘らるる」の歌
- 清少納言も「忘らるる」で始まる歌を詠んでいます。詞書に「心変わりたる男に言ひ遣はしける」とあり、やはり心変わりした男性に詠まれた歌です。現代人にも十分に通じる感性で詠まれていると思われます。
原文
忘らるる 身のことわりと 知りながら
思ひあへぬは 涙なりけり 『詞花和歌集』清少納言現代語訳
あなたに忘れられる道理を理解していながら
我慢できないのは私の涙であることよ。 - 源氏物語で引用された右近の歌
- 紫の上は、須磨に向かう光源氏が「命がある限り、あなたと一緒にいる」と約束してくれたことを信じて都で待っていました。 しかし、光源氏が明石の君と関係を持ち、彼女を妊娠させたうえで都に戻ってきたことで、紫の上は大きなショックを受けます。 彼女は「身をば思はず」と右近の歌の一部を光源氏につぶやきました。 右近の歌は、愛していた男性に裏切られた女性の恨む気持ちをよく表しています。
- 葛飾北斎による浮世絵
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この浮世絵は、右近の恋人だったとされる藤原敦忠の『百人一首姥かゑとき』です。
丑の刻参り(午前1時から午前3時ごろに神社の御神木に憎い相手に見立てた藁人形を釘で打ちつける呪いの一種)をしている女性は、永遠の愛を誓った恋人が神罰によって命を奪われないか心配しているという歌を詠んだ右近をイメージしていると考えられます。
平安時代の女性は、たとえ結婚していても、正妻でなければ、男性が訪れなくなることで関係が自然に終わってしまうという不公平な状況に置かれていました。ちなみに、丑の刻参りを行うのは、女性だけだったようです。
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。
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