日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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柿本人麻呂
あしびきの
山鳥の尾の
しだり尾の
ながながし夜を
ひとりかも寝む
Long is the mountain pheasant’s tail That curves down in its flight; But longer still, it seems to me, Left in my lonely plight, Is this unending night.The Nobleman Kaki-no-Moto
- 3番歌
- あしびきの
山鳥の尾の
しだり尾の
ながながし夜を ひとりかも寝む
作者:柿本人麻呂(生没年不詳)
出典:拾遺和歌集 恋
- 現代語訳
- 山鳥の垂れ下がる尾のような長い長い夜を独りさびしく寝るのだろうか。
- 解説
- この歌は一人寂しく寝る夜の長さを山鳥の長い尾に例えて詠まれました。山鳥のつがいは昼は一緒に過ごしても、夜は谷を挟んで別々の山で過ごす習性があると考えられていました。
- どんな人?
- 柿本人麻呂は、朝廷に仕え、天皇の賛歌や挽歌などを詠んだことで知られています。彼は抒情詩に優れており、山部赤人とともに「歌聖」として賞賛され、和歌の神様として尊ばれています。石見国(=島根県)の鴨島という地で最期を迎えたとされていますが、その死は謎に包まれており、行き倒れて亡くなったとも、刑死によって亡くなったとも言われています。
- 語句・豆知識
-
- あしびき の
- 「山」を導く枕詞。
- 山鳥 の 尾 の
- 山鳥の尾の
- しだり尾 の
- 長く垂れ下がった尾のような
- ながながし 夜 を
- 長い長い夜を
- ひとり かも 寝 む
- ひとりで寝むるのかなあ
- 原歌
- 百人一首に採られた柿本人麻呂の歌は、後撰和歌集が出典ですが、原歌は『万葉集(第11巻:2802番歌)』だといわれており、詠み人知らずになっています。時代を経ながらアレンジされて、柿本人麻呂の歌になったといわれています。
原文
思へども 思ひもかねつ あしひきの
山鳥の尾の 長きこの夜を 『万葉集』詠み人知らず現代語訳
どんなにあなたのことを思っても、思いは尽きない。
この夜は山鳥の尾のように長いから。 - 後鳥羽院が本歌取りした歌
-
後鳥羽院は、柿本人麻呂の「あしびきの山鳥の尾の…」を本歌取りした歌を詠んでいます。
「遠山鳥」とは、山鳥の別名です。原文
桜咲く 遠山鳥の しだり尾の
ながながし日も あかぬ色かな 『新古今和歌集』後鳥羽院現代語訳
遠くの山に咲く桜。遠山鳥のしだり尾のように
長い一日をかけて見てもあきない色だな。 - 柿本人麻呂が詠んだ皇族の挽歌
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柿本人麻呂は、持統天皇に仕えた宮廷歌人でした。
持統天皇の皇子・草壁皇子が亡くなったときに柿本人麻呂は、次の歌を詠みました。原文
あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの
夜渡る月の 隠らく惜しも 『万葉集』柿本人麻呂現代語訳
太陽は照っていますが、夜空を渡る月のように草壁皇子がお隠れになられたことが惜しいことです。
次の歌は、草壁皇子の皇子である軽皇子が狩猟で安騎の野に宿られた際に柿本人麻呂が詠んだ歌です。
亡くなった草壁皇子を月に見立て、夜明けの光を軽皇子に見立てています。原文
東の 野に炎の 立つ見えて
かへり見すれば 月傾きぬ 『万葉集』柿本人麻呂現代語訳
東の方にある野原に夜明けの光が射し始めたとき、
振り返ると、西の空には月が傾いていた。 - 宇治の河辺で無常観を詠んだ歌
- 次の歌は、柿本人麻呂が荒廃した近江国から藤原京に行く際に宇治の河辺で詠んだと伝わっています。
「もののふの」は「八十」を導く枕詞。「氏」と「宇治」が掛詞になっています。
廃都となった大津京を目の当たりにした柿本人麻呂が世の移り変わりの無常観を詠んだのではないかと考えられています。原文
もののふの 八十氏河の 網代木に
いさよふ波の 行く方知らずも 『万葉集』柿本人麻呂現代語訳
朝廷に仕える様々な役人たちは、宇治川の網代木にいざよう波のように行方はわからないことだ。
- 柿本人麻呂の辞世の句
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柿本人麻呂の最期については、様々な説があり、どのように亡くなったのか定かではありませんが、彼は最期に妻を想った歌を残しました。
原文
鴨山の 岩根し枕ける われをかも
『万葉集』柿本人麻呂
知らにと妹が 待ちつつある現代語訳
鴨山の岩を枕に死のうとしている私を妻は何も知らずに待ち続けているのだろうか。
- 阿騎野人麻呂公園
- 葛飾北斎による浮世絵
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江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。百人一首の歌を乳母がわかりやすく絵で説明するという趣旨で制作されたものです。
北斎は網を曳く姿を描くことで、枕詞の「あしびきの」を表そうとしたのだと思われます。また、長くたなびく煙は長い夜の時間を表現しているのかもしれません。
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。 - 三十六歌仙
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柿本人麻呂は三十六歌仙の1人。
三十六歌仙の一覧ページはこちらをご覧ください。
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