日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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素性法師
今こむと
いひしばかりに
長月の
有明の月を
待ち出でつるかな
THE moon that shone the whole night through This autumn morn I see, As here I wait thy well-known step, For thou didst promise me— 'I'll surely come to thee.'The Priest Sosei
- 21番歌
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今こむと
いひしばかりに
長月の
有明の月を 待ち出でつるかな
作者:素性法師(生没年不詳)
出典:古今和歌集 恋
- 現代語訳
- 今行くとあなたが言うので待っていたら、とうとう9月の有明の月を待ち明かすことになりましたよ。
- 解説
- この歌は女性の視点で詠まれています。 長月は陰暦の9月にあたり、晩秋の季節です。 待ち続けた時間が「一晩中だったのか」「気づけば何か月も経っていたのか」で解釈が分かれます。 百人一首の撰者である藤原定家は、古今和歌集の注釈書『顕注密勘』で 「月頃待つ内に秋が暮れた」と物語を感じさせるような解釈をしています。
- どんな人?
- 素性法師は、桓武天皇のひ孫で、僧正遍昭の息子として生まれました。父は仁明天皇が崩御したときに出家しますが、同じ時期に父の勧めを受けて若くして出家しました。出家後も宮廷の歌会で活躍しています。
- 語句・豆知識
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- 今 来 む と
- すぐに行くと
- いひ し ばかり に
- 言ったばっかりに
- 長月 の
- (旧暦の)九月の
- 有明 の 月 を
- 有明の月を
- 待ち出で つる かな
- 待って出会ってしまったのだなあ
- 下敷きにした歌
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素性法師の「今来むと…」の歌は、次の歌を下敷きにしたと考えられています。
この歌は、彼の父である僧正遍昭の一首です。原文
今こむと いひて別れし 朝より
思ひくらしの 音をのみぞ鳴く 『古今和歌集』僧正遍昭現代語訳
あなたがすぐ来るねと言って別れたあの朝から
私は蜩のようにひたすら泣いています - 有明の月と月の満ち欠け
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「有明の月」とは、夜が明けても空にある月のことです。月齢15日前後〜29日までの月が明け方の時間帯に空に残っています。下表は、月の出と月の入りの時間の目安です。
月齢 月の出 月の入り 新月 6時 18時 上弦の月 12時 24時 望月 18時 6時 下弦の月 24時 12時 - 素性法師の系図
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素性法師は桓武天皇の曽孫です。彼の父である僧正遍昭は、仁明天皇の第7皇子である常康親王から 雲林院の管理を引き継ぎました。
僧正遍昭が亡くなると、素性法師は雲林院に移り住み、和歌や漢詩の会を開いていたと伝えられています。
ちなみに、歴史物語の『大鏡』は二人の老人が 雲林院の菩提講と呼ばれる 法華経を講説する法会で 思い出話を語り合う場面から始まります。
- 葛飾北斎による浮世絵
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江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。日食のような月、釣鐘に向かう老人、奥の民家に見える女性。謎めいた絵です。
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。 - 三十六歌仙
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素性法師は三十六歌仙の1人。
三十六歌仙の一覧ページはこちらをご覧ください。
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