日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
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周防内侍
春の夜の
夢ばかりなる
手枕に
かひなく立たむ
名こそをしけれ
IF I had made thy proffered arm A pillow for my head For but the moment's time, in which A summer's dream had fled, What would the world have said?The Lady-in-Waiting Suwo
- 67番歌
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春の夜の
夢ばかりなる
手枕に
かひなく 立たむ 名こそをしけれ
作者:周防内侍(生没年不詳)
出典:千載和歌集 雑
- 現代語訳
- 春の夜のような夢ぐらい儚いあなたの戯れの手枕のために何の甲斐もない浮名が立つことが惜しいのです。
- 解説
- 二条院で人々が夜通し語り合っていたとき、周防内侍が「眠くなったので枕がほしい」と言いました。その際、大納言の藤原忠家が御簾の外からすっと手を伸ばし、「枕にどうぞ」と申し出てきました。周防内侍は即興でこの歌を詠み、忠家の申し出をやんわりと断りました。ちなみに藤原忠家は藤原定家の曾祖父にあたります。
- どんな人?
- 周防内侍という女房名は父が周防守であったことに由来します。本名は平仲子 といいます。後冷泉、後三条、白河、堀河と4人もの天皇に仕え、宮廷歌人として名を馳せました。『後拾遺和歌集』以降の勅撰和歌集には35首選ばれています。家集に『周防内侍集』があります。
- 語句・豆知識
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- 春 の 夜 の
- 春の夜のような
- 夢 ばかり なる
- 夢ぐらい儚い
- 手枕 に
- 手枕のために
- 甲斐なく
- 何の価値もなく
- 立た む
- 立つであろう
- 名 こそ 惜しけれ
- 評判がとても口惜しい(残念である)
- 藤原忠家の返歌
- 周防内侍の「春の夜の…」の歌に対して藤原忠家は、次のように返歌しています。
原文
契りありて 春の夜深き 手枕を
いかがかひなき 夢になすべき 『千載和歌集』藤原忠家現代語訳
深い縁があって春の夜更けに差し入れた手枕をどうして儚い夢にしてしまうでしょう
- 不吉な歌と言われた名歌
- 下萌えとは、心の中で思い焦がれることのたとえとして使われる言葉です。この歌は、評判になり、周防内侍は「下もえの内侍と」呼ばれるほど、反響を呼びました。しかし、中には「煙」が死を表す不吉な言葉だと言う人もいました。そのため、歌を作った周防内侍に何か悪いことが起こるのではと心配されましたが、実際に若くして亡くなったのは女院の方でした。このことから、歌と女院の早い死に関係があるのではないかという噂が広まったと言われています。
原文
恋ひわびて 眺むる空の 浮雲や
わが下萌えの 煙なるらむ 『金葉和歌集』周防内侍現代語訳
恋に物思いをして眺める浮雲は、私が心の中で思い焦がれて生じた煙が雲になったのだろうか。
- 手放すことになった
家の柱に書き付けた歌 - 周防内侍が思い出が詰まった家を手放すことになり、その柱にこの歌を書きつけました。
あだ名にされるほど、反響のあった歌だったようです。原文
住みわびて 我さへ軒の 忍草
しのぶかたがた しげき宿かな 『金葉和歌集』周防内侍現代語訳
住みづらくなって、立ち退くことになった軒に生えている忍ぶ草よ。偲ぶことが多い家であるよ。
- 周防内侍の相関図
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周防内侍は、第70第天皇・後冷泉天皇の女房として仕えました。
百人一首に採られた和歌は後冷泉天皇の中宮・章子内親王の御所で女房たちが夜通し話していた際に詠まれたものです。このとき、藤原忠家が御簾の下から腕を伸ばしてきたのがきっかけとなり、歌が詠まれました。
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。藤原忠家が御簾の下から腕を滑り込ませている様子が描かれています。
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