日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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伊勢
難波潟
みじかき葦の
ふしのまも
逢はでこの世を
過ぐしてよとや
SHORT as the joints of bamboo reeds That grow beside the sea On pebble beach at Naniwa, I hope the time may be, When thou ’rt away from me.The Princess Ise
- 19番歌
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難波潟
みじかき葦の
ふしのまも
逢はでこの世を 過ぐしてよとや
作者:伊勢(生没年不詳)
出典:新古今和歌集 恋
- 現代語訳
- 難波潟に生えている葦の節と節の間のような短い時間さえ会えないままこの世を終えてしまえとあなたは言うのでしょうか。
- 解説
- 『伊勢集』の詞書に「秋ごろ、うたて人の物言ひけるに」(現代語訳:秋ごろ、不愉快なことにある人が何かを言った時に)と書かれています。この歌は、かつて恋人だった仲平と破局したときの伊勢の心情を表した歌になっています。
- どんな人?
- 伊勢は古今集時代を代表する歌人で、恋多き女性です。藤原仲平と別れた後は宇多天皇との間に皇子を産んだことから「伊勢の御息所」と呼ばれました。また、宇多天皇の皇子である敦慶親王との間には、歌人・中務をもうけました。
- 語句・豆知識
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- 難波潟
- 難波潟
- みじかき 葦 の
- 短い葦の
- ふし の ま も
- 葦の節と節の間のような少しの間も
- 逢は で
- 逢わないで
- こ の 世 を
- この人生を
- 過ぐし てよ と や
- 過ごせと言うのですか
- 「葦の節」とは
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水辺に生えるイネ科の植物。別名:ヨシ。茎は細く、竹のように節があります。
4月下旬に芽を出し、6月頃まで急激に成長し、茎は長いもので3mに及びます。
地下茎が横に伸び、群生します。「節の間」とは、節と節の間のことで、短いものの比喩に使われます。
難波は葦の名所として多くの和歌に詠まれています。実際の葦を見ると、節と節の間隔は短く感じられませんが、葦が節を継ぎ足すように茎を急速に伸ばしながら成長する様子から「時間の短さ」を表しているという説があります。
- 恋愛相関図
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伊勢はいろんな人たちから求愛されました。伊勢が仕えていた温子 の夫である宇多天皇との間には皇子が誕生し、伊勢は「伊勢の御息所」と呼ばれました。しかし、その皇子はわずか8歳で亡くなっています。
その後、温子の娘婿である敦慶 親王との間には歌人・中務が誕生しました。伊勢と中務は親子で三十六歌仙に名前を連ねています。
- 恋人と破局した後に詠んだ歌
- 古今和歌集の恋五に収められている伊勢の歌です。
恋五では、恋が終わった後の歌が収録されており、この歌は恋が破局した後に詠まれたものです。原文
逢ひに逢ひて 物思ふころの わが袖に
宿る月さへ 濡るる顔なる 『古今和歌集』伊勢現代語訳
あなたと何度も逢っていたのに、別れて物思いにふける今日この頃では、私の袖は涙に濡れて、そこに映る月までもが泣き濡れた顔であることよ。
- 源氏物語の「空蝉」に引用された歌
- 次の歌は、伊勢の家集『伊勢集』に収められた歌です。
紫式部が『源氏物語』の第三帖「空蝉」で引用したことで有名になりました。原文
空蝉の 羽におく露の 木隠れて
しのびしのびに 濡るる袖かな 『伊勢集』伊勢現代語訳
空蝉の羽が朝露に濡れても木の枝葉の陰に隠れてわからないように、私の袖も忍ぶ恋に人知れず濡れています。
- 葛飾北斎による浮世絵
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江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。百人一首の歌を乳母がわかりやすく絵で説明するという趣旨で制作されたものです。難波潟の風景を背景に梅見をする女性が描かれています。この女性が伊勢でしょうか。また、新しい瓦を葺く様子は忘れられない思い出に蓋する女性の心情を表現しているように思われます。
- 三十六歌仙
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伊勢は三十六歌仙の1人。
三十六歌仙の一覧ページはこちらをご覧ください。
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