日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
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前大僧正慈円
おほけなく
憂き世の民に
おほふかな
わがたつ杣に
墨染の袖
UNFIT to rule this wicked world With all its pomp and pride, I'd rather in my plain black robe A humble priest abide, Far up the mountain side.The Former Archbishop Jiyen
- 95番歌
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おほけなく
憂き世の民に
おほふかな
わがたつ杣に 墨染の袖
作者:前大僧正慈円(1155年~1225年)
出典:千載和歌集 雑
- 現代語訳
- おこがましいけれども、このつらい悲しみに満ちた現世を生きる人々を私の袖で包んであげたい。比叡山に住みはじめた私の墨染の袖で。
- 解説
- 平安時代末期~鎌倉時代初期にかけての時代は、天災や疫病、飢餓、群盗が横行し、朝廷から鎌倉幕府への政権の移行期にあり、内乱も繰り返されていました。
『千載和歌集』には「題知らず」とありますが、慈円は、おそらくこうした世の中を嘆き、仏教の力で人々を救いたいという思いでこの歌を詠んだと考えられます。
- どんな人?
- 前大僧正慈円は藤原忠通の息子で、幼くして出家しました。4回も比叡山延暦寺の天台座主になった名僧です。鎌倉時代初期の史論書『愚管抄』を著し、後鳥羽院の挙兵を諫めようとしたと考えられています。
- 語句・豆知識
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- おほけなく
- 身の程知らずであるが
- 憂き世 の 民 に
- つらいことの多い世に生きる人々に
- おほふ かな
- (墨染の袖で)覆うことだ
- わ が 立つ 杣 に
- 私が立っている杣に
- 墨染 の 袖
- 僧服の袖を
- 慈円の系図
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慈円は、藤原忠通(法性寺入道前関白太政大臣)の息子で、九条兼実の弟です。また91番歌の九条良経の叔父にあたります。
30歳のときに、後鳥羽院に任命され、護持僧になりました。宗教界だけでなく、政治的にも発言力がありました。
慈円は、歴代天皇の業績と歴史の流れを『愚管抄』にまとめています。一説には、承久の乱を起こすことになる後鳥羽上皇の挙兵を諫めることが執筆の目的だったとされています。
- 本歌
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慈円は、次の歌を本歌取りしました。
原文
阿耨多羅 三藐三菩提の 仏たち
わが立つ杣に 冥加あらせたまえ 『新古今和歌集』最澄現代語訳
最上の知恵を持たれる仏たちよ。
私が立つこの杣に、冥加をお与えください。 - 雁と月を詠んだ秋の叙景歌
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次の歌は『新古今和歌集』に収められている慈円の歌です。
原文
大江山 かたぶく月の 影さえて
鳥羽田の面に 落つる雁が音 『新古今和歌集』慈円現代語訳
大江山に傾いた月は冴えわたり、
鳥羽の田んぼの面に降りる雁の鳴き声が聞こえている。 - 比叡山からの眺め
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比叡山は滋賀県と京都市にまたがる標高約848mの山です。比叡山全域を境内とする延暦寺は、平安時代初期に天台宗の開祖である最澄によって建てられました。
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