時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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参議雅経さんぎまさつね

吉野よしの
やま秋風あきかぜ
ふけて
ふるさとさむ
ころもうつなり

参議雅経
参議雅経

AROUND Mount Miyoshino's crest The autumn winds blow drear; The villagers are beating cloth, Their merry din I hear, This night so cold and clear.The Privy Councillor Masatsune

94番歌
吉野よしのやま秋風あきかぜふけて
ふるさとさむころもうつなり
作者:参議雅経さんぎまさつね(1170年~1221年)
出典:新古今集 秋
現代語訳
吉野の山に、秋風が吹きわたり、夜更けになると、吉野の里は寒く、衣を打つ砧の音が寒々しく響く。
解説
新古今和歌集』の詞書に「擣衣とういの心を」と記されています。「擣衣とうい」とは、水に濡らした布を木の台に置いて、きぬたと呼ばれる木の棒で打ち、衣服の折り目をつけたり、艶を出したりする作業のことです。この歌は、坂上是則の「み吉野の 山の白雪 つもるらし ふるさと寒く なりまさるなり」(現代語訳:吉野の山では白雪が積もっているだろう、古都では寒さが増している)を本歌取りして作られました。
どんな人?
参議雅経こと、藤原雅経は、飛鳥井流あすかいりゅう蹴鞠けまりを興した蹴鞠の名人です。藤原俊成に和歌を師事し、『新古今和歌集』の撰者の一人に選ばれました。
語句・豆知識
み吉野 の
吉野の地図へのリンク
山 の 秋風
山の秋風が
さ夜 ふけ
夜が更けて
ふるさと 寒く
ふるさとは寒く
この歌での「ふるさと」は、旧都である奈良のことです。
打つ なり
衣を打つ音が聞こえる
衣を打つ様子
Suzuki Harunobu, CC0, via Wikimedia Commons

この浮世絵は、江戸時代の浮世絵師・鈴木春信(1724-1770)による「壔衣の玉川 摂津の名所」という作品です。衣を砧で打っている様子が描かれています。

参議雅経の系図・相関図
参議雅経の系図・相関図 大江匡房 源実朝

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藤原雅経は、蹴鞠の名手で、飛鳥井流蹴鞠の祖とされています。雅経の祖父・藤原頼輔も蹴鞠に優れていた人でした。

雅経の父、藤原良経は源義経と同盟を結んでいたため、鎌倉幕府から追及を受け、流罪に処されました。そのため、雅経も連座して鎌倉幕府に連行されましたが、初代将軍・源頼朝は彼の和歌と蹴鞠の才能を高く評価しました。この評価をきっかけに、雅経は第2代将軍・源頼家や第3代将軍・源実朝と親しい関係を築くことになります。

さらに、雅経は源頼朝の養子となり、その縁から、鎌倉幕府の有力な重臣である大江広元の娘を妻に迎えました。

李白の漢詩

雅経は、李白の『子夜呉歌』四首其三を踏まえて詠んだと考えられています。

原文

長安ちょうあん一片月いっぺんのつき
万戸ばんこ擣衣声ころもをうつのこえ
秋風しゅうふうふいて不尽つきず
すべてこれ玉關情ぎょっかんのじょう
何日いずれのひか平胡虜こりょをたいらげて
良人りょうにん罷遠征えんせいをやめん

現代語訳

長安の空には一片の月がかかっていて、
どの家からも擣衣の音が聞こえてくる。
秋風は絶え間なく吹き続け、
すべては玉門関で兵役に就く夫を偲ばせる。
いつになれば夫は北方の異民族を平定し、
遠征をやめて帰ってくるのだろうか。

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