時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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鎌倉右大臣かまくらのうだいじん

なか
つねにもがもな
なぎさこぐ
あまの小舟こぶね
綱手つなでかなしも

鎌倉右大臣
鎌倉右大臣

I LOVE to watch the fishing-boats Returning to the bay, The crew, all straining at the oars, And coiling ropes away; For busy folk are they.The Minister of the Right District of Kamakura

93番歌
なかは つねにもがもな なぎさこぐ
あまの小舟こぶね綱手つなでかなしも
作者:鎌倉右大臣 かまくらのうだいじん (1192年~1219年)
出典:新勅撰和歌集 羇旅
現代語訳
世の中は、こんな風にいつまでも変わらないでいてほしい。渚を漕ぐ漁師の小舟の綱を引く様子が愛おしく感じられるよ。
解説
この歌は、鎌倉幕府の第三代将軍・源実朝が20歳頃に、鎌倉あたりの浜辺を眺めながら詠んだものです。無常観が漂う時代の中で、庶民の何気ない日常を愛おしく見守る為政者としての姿が感じられます。
どんな人?
源実朝は、鎌倉幕府を開いた源頼朝と北条政子の息子です。兄の頼家の後を継ぎ、わずか12歳で第三代鎌倉幕府征夷大将軍になりました。武士を率いる立場でしたが、実朝は和歌を愛し、平和な世の中を願っていました。しかし、不幸にも28歳の若さで甥の公暁くぎょうによって暗殺され、短い生涯を閉じました。権力争いに巻き込まれたと考えられています。
語句・豆知識
世の中
世の中は
つねに もがも な
常にこのようであるといいなあ
こぐ
波打ち際を漕いでゆく
あま 小舟
漁師の小舟の
綱手 かなし
船をつないで引く綱に心が引かれるなあ
源実朝の系図
源実朝の相関図 陽成院 元良親王 源重之

の番号が付いている人物をクリックすると、その歌人のページに移動します。

源実朝は、鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝の次男です。御家人たちの権力争いで兄の頼家は追放されたため、実朝はわずか12歳で将軍になりました。しかし、実際の政治は祖父の北条時政や母の北条政子、母の弟の北条義時によって執り行われました。

一方で、実朝は後鳥羽上皇と関係を築き、武士としては初めて右大臣に任じられています。また、朝廷文化に興味を持ち、将軍邸で歌会を開くほど和歌に親しみ、彼は藤原定家に和歌を師事しました。

しかし、28歳のとき、鶴岡八幡宮を参拝中に甥の公暁に暗殺されました。権力闘争の中で生き抜いた彼の人生は激しく変動しましたが、その中で詠んだ「世の中は常にもがもな…」という歌には、平和を願う思いが込められています。

後鳥羽院に忠誠の意を表した歌
次の歌は、実朝が後鳥羽院に対して忠誠の意を表した歌です。実朝は、鎌倉幕府の第3代将軍でありながら、朝廷とのつながりが深かった人物でした。この歌は『金槐和歌集』の巻末に収められています。

原文

やまうみせなむ なりとも
きみにふたこころ わがあらめやも 『金槐和歌集』源実朝

現代語訳

山が裂け、海が干上がる世になっても
あなたを裏切ることがあるでしょうか。
いいえ決してありません。

鎌倉海浜公園の歌碑
  • 鎌倉海浜公園の歌碑_01
  • 鎌倉海浜公園の歌碑_02
  • 鎌倉海浜公園の歌碑_03
  • 鎌倉海浜公園の歌碑_04

鎌倉海浜公園の眼下に広がる由比ヶ浜。その美しい砂浜は、夏になると多くの人でにぎわう海水浴場として知られています。公園内には、舟を模した実朝の歌碑が佇んでいます。

『吾妻鏡』によれば、実朝は自ら宋へ渡る計画を立て、唐船の建造を進めようとしていました。波穏やかな浜辺で、漁師たちが舟を引く姿を眺めながら、変わらぬ平和を願った実朝。その想いが、今もこの地を優しく見守っているかのようです。

江ノ島電鉄「長谷駅」から南へ徒歩10分ほど進むと、由比ヶ浜に着きます。そこから浜辺沿いに右へ5分ほど歩くと、鎌倉海浜公園に到着します。
(2025年2月22日)

鶴岡八幡宮
  • 鶴岡八幡宮
  • 鶴岡八幡宮
  • 鶴岡八幡宮_02

鎌倉幕府第三代将軍・源実朝は、28歳で右大臣に任ぜられました。その報告のために鶴岡八幡宮を参詣し、大階段を下りていたところを、甥であり養子でもあった公暁に襲われ、命を落としました。

公暁は、将軍職を追われた源頼家の子でした。父の仇を討つべく実朝を討ちますが、その後まもなく誅殺され、源氏の将軍家は三代で途絶えることとなりました。

鶴岡八幡宮の境内にある鎌倉国宝館の近くには、実朝の歌碑が建てられています。

山はさけ うみはあせなむ 世なりとも
君にふた心 わがあらめやも

この歌は、後鳥羽上皇に対する忠誠を誓ったものとして広く知られています。

鶴岡八幡宮は、JR「鎌倉駅」東口や江ノ島電鉄「長谷駅」から徒歩10分ほどで行けますが、観光客で混雑することが多いため、時間に余裕をもって出かけるのがおすすめです。
(2025年2月22日)

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