日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
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皇嘉門院別当
難波江の
葦のかりねの
ひとよゆゑ
みをつくしてや
恋ひわたるべき
I'VE seen thee but a few short hours; As short, they seemed to me, As bamboo reeds at Naniwa; But tide-stakes in the sea Can't gauge my love for thee.An Official of the Dowager Empress Kwoka
- 88番歌
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難波江の
葦のかりねの
ひとよゆゑ
みをつくしてや 恋ひわたるべき
作者:皇嘉門院別当(生没年不詳)
出典:千載和歌集 恋
- 現代語訳
- 難波の入り江に生えている葦を刈った根の短い一節ではありませんが、一夜の共寝をしたために、私は難波の澪標のように身を尽くし、あの人を恋い慕い続けなくてはいけないのでしょうか。
- 解説
- 『千載和歌集』の詞書に「摂政右大臣の時の家歌合に、旅宿に逢ふ恋といへる心をよめる」とあり、この歌は、九条兼実の家で催された歌合で「旅宿に逢ふ恋」という題で詠まれました。当時、難波の入り江は水上交通の要衝として栄え、旅人たちで賑わい、遊女がたくさんいました。皇嘉門院別当は、こうした遊女たちに思いを馳せて歌を詠んだと考えられます。
- どんな人?
- 皇嘉門院別当は崇徳院の皇后である皇嘉門院(藤原聖子)に別当として仕えました。
- 語句・豆知識
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- 難波江 の
- 難波江の
- 葦 の かりね の
- 葦の刈り根の
- ひとよ ゆゑ
- (一節のような)一夜のために
- 身 を つくし て や
- 澪標のように身を尽くして
- 恋ひわたる べき
- 恋し続ける
「べき」は疑問を表す係助詞「や」に呼応して連体形になっています。 - 皇嘉門院別当の相関図
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皇嘉門院別当は、藤原忠通の娘である皇嘉門院に仕えていました。
皇嘉門院の異母弟に九条兼実がいた縁から、皇嘉門院別当は、九条兼実の歌会にたびたび参加し、歌人として名を馳せていました。
- 葦の節とは
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水辺に生えるイネ科の植物。別名:ヨシ。茎は細く、竹のように節があります。
4月下旬に芽を出し、6月頃まで急激に成長し、茎は長いもので3mに及びます。
地下茎が横に伸び、群生します。「節の間」とは、節と節の間のことで、短いものの比喩に使われます。
難波は葦の名所として多くの和歌に詠まれています。実際の葦を見ると、節と節の間隔は短く感じられませんが、葦が節を継ぎ足すように茎を急速に伸ばしながら成長する様子から「時間の短さ」を表しているという説があります。
- 澪漂(みおつくし)
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座礁の危険性がある浅瀬おいて、比較的水深があって船の往来が可能であることを示す杭。難波は淀川の河口が広がり浅瀬が多く船が難航したため、難波の澪標は有名でした。
「澪標」は澪つ串が由来です。「水脈 」と同意で海や川の中で、水の流れる筋という意味です。和歌において「身を尽くし」と掛けてよく用いられます。 - 貴族と遊女のつながり
- 平安時代中期から鎌倉時代初期にかけて、「今様」と呼ばれる当時の流行歌が貴族の間で人気を博しました。 遊女の中には、今様を歌うことで芸能活動を行い、貴族の館に招かれる者もいました。 後白河天皇は「乙前」という遊女から今様を学び、 今様の歌謡集『梁塵秘抄』を編纂するほど熱心な支持者でした。 皇嘉門院別当が遊女に思いを馳せて歌を詠んだことは意外かもしれませんが、貴族は今様を通じて遊女と交流し、彼女たちを身近に感じていたのです。
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