日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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阿倍仲麻呂
天の原
ふりさけみれば
春日なる
三笠の山に
出でし月かも
WHILE gazing up into the sky, My thoughts have wandered far; Methinks I see the rising moon Above Mount Mikasa At far-off Kasuga.Nakamaro Abe
- 7番歌
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天の原
ふりさけみれば 春日なる
三笠の山に 出でし月かも
作者:阿倍仲麻呂(698年頃~770年)
出典:古今和歌集 羇旅
- 現代語訳
- 遥かな大空を仰ぎ見ると月が出ていた。あの月は春日の三笠山に出ていた月と同じなのかなあ。
- 解説
- 『古今集』の詞書に「唐土にて月を詠みける」とあります。この歌は長く唐にいた阿部仲麻呂が帰国する際、明州(現在の寧波市)で催された送別会で詠んだものです。三笠山では遣唐使が唐への航海の安全を祈る祭祀が行われたとされています。
- どんな人?
- 10代後半で留学生として遣唐使と共に唐に渡った阿部仲麻呂は、20代で科挙に合格し、要職を得て玄宗皇帝に仕えました。優れた才能のため唐での職を離れることを許されず、50歳を過ぎてやっと帰国の途につきましたが、船が暴風雨に遭いベトナムに漂着しました。その後、長安に戻り73歳で亡くなりました。
- 語句・豆知識
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- 天の原
- 大空
- ふりさけ見れ ば
- 遠くを眺めてみれば
- 春日 なる
- 春日にある
- 三笠の山 に
- 三笠の山に
- 出で し
- 出ていた
- 月 かも
- 月なのかなあ
- 三笠山の麓にある春日大社
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三笠山のふもとで奈良公園内にある神社です。
藤原氏の氏神が祀られています。 - 美味しい和菓子『月鴨』
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京都の老舗和菓子店「甘春堂」さんの「月鴨」と名付けられたどらやきは、阿倍仲麻呂の百人一首の歌が名前の由来になっています。
- 遣唐使の航路
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遣唐使は難波津を出発し、瀬戸内海を抜けて、博多津から唐に渡りました。当初は朝鮮半島に沿って唐に入る北路でしたが、新羅との関係が悪化したため、途中から朝鮮半島の近くを通らず、対馬海流を横断して唐に入る南路に変わりました。遣唐使船には羅針盤がなく、南路は沿岸に沿って進ことができないので北路と比べると難しい航海でした。 - 仲麻呂の訃報を聞いた李白の詩
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阿倍仲麻呂は唐で李白や王維などの漢詩人と交友がありました。次の詩は『晁卿衡を哭す』という李白の七言絶句(一句七言で四句からなる漢詩)です。「晁衡」は仲麻呂の唐名です。次の歌は仲麻呂の遭難の知らせを聞いた李白が哀悼の意を込めて詠んだ歌です。
原文:
日本晁卿辞帝都
征帆一片遶蓬壷
明月不帰沈碧海
白雲愁色満蒼梧
書き下し文:
日本の晁卿、帝都を辞し
征帆一片蓬壺を遶
明月帰らず碧海に沈み
白雲愁色蒼梧に満つ現代語訳:
日本の晁衡は都・長安を去り、
ひとひらの船で東の大海原を
何とか渡ろうとするが、
明月のように高潔だった彼は
碧海に沈み帰らぬ人となった。
白雲が憂いを帯び、蒼梧に満ちる。晁衡:阿倍仲麻呂の唐での名前です。
蓬壺:東の海にあると信じられた伝説の山。日本のことと解釈する説もあります。
蒼梧:広西省東部の地名。
- 日中友好の印 阿倍仲麻呂の記念碑
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中国西安市(かつての都・長安)の興慶宮の跡地にある公園には、阿倍仲麻呂の記念碑が建てられています。仲麻呂と李白の友情を日中友好の象徴として建てられたもので、記念碑の側面には、仲麻呂の百人一首の歌を中国語訳したものと仲麻呂の訃報を聞いた李白が詠んだ『晁卿衡を哭す』の詩が刻まれています。地図へのリンク
- 葛飾北斎による浮世絵
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江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。百人一首の歌を乳母がわかりやすく絵で説明するという趣旨で制作されたものです。海の方向を見つめる仲麻呂が描かれています。きっと東の海を眺めて、祖国を思っているではないでしょうか。海面に浮かぶ月や東からの風を受けてたなびく旗も印象的です。
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。 - 月岡芳年の『月百姿』
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幕末から明治時代前半にかけて活躍した浮世絵師・月岡芳年による浮世絵です。
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