日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー
Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox
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相模
恨みわび
ほさぬ袖だに
あるものを
恋にくちなむ
名こそをしけれ
BE not displeased, but pardon me, If still my tears o’erflow; My lover's gone, and my good name, Which once I valued so, I fear must also go.Sagami
- 65番歌
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恨みわび
ほさぬ袖だに
あるものを
恋にくちなむ 名こそをしけれ
作者:相模(生没年不詳)
出典:後拾遺和歌集 恋
- 現代語訳
- 恨む気力さえなくなり、涙に濡れて乾かすひまもない着物の袖さえあるのに、ましてこの恋のせいで浮名が立って私の評判が朽ちてしまうことは口惜しいことです。
- 解説
- この歌は「永承六年内裏歌合」で「恋」という題で詠まれ、勝った歌です。つれない男に恋をした女が失恋するとともに自身の浮名が立ってしまったことを嘆いています。
- どんな人?
- 相模という名前は相模守をしていた大江公資と結婚したことに由来していますが、その夫とは別れてしまいました。別れた後は、一条天皇の皇女である修子内親王に仕え、奔放な恋愛人生を送りました。歌人としても高く評価され、『後拾遺和歌集』には、彼女の歌が40首も収録されました。
- 語句・豆知識
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- 恨みわび
- 恨んで気落ちして
- ほさ ぬ 袖 だに
- 乾かない袖さえ
- ある ものを
- あるのに
- 恋 に くち な む
- 恋のせいで朽ちてしまう
- 名 こそ 惜しけれ
- 評判が下がることがとても残念である
- 夫に忘れられて詠んだ歌
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この歌の詞書には、「大江公資より忘れられてよめる」と記されています。
原文
夕暮れは 待たれしものを 今はただ
行くらむ方を 思ひこそやれ 『後拾遺和歌集』相模現代語訳
夕暮れはいつもあなたを待っていたのに、今はただ、あなたが誰のもとに行ってしまうのか、そればかりが気になってしまうのです。 - 夫を諦めつつ懐かしむ歌
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相模を捨てた夫は他の女性とともに遠江国(今の静岡県西部)へ赴任しました。
この歌には、逢坂の関を越えて去っていった夫への、諦めと未練が交錯する複雑な心情が詠まれています。原文
逢坂の 関に心は かよはねど
見し東路は なをぞ恋しき 『後拾遺和歌集』相模現代語訳
逢坂の関を越えて行くあなたに心を通わせることはありませんが、一緒に見た東路は懐かしく思い出されます。 - 相模の相関図
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相模守だった大江公資の妻となったことから、女房名は「相模」と名付けられました。
しかし、その夫とは、4年ほどで別離し「朝ぼらけ宇治の川霧絶え絶えに…」の歌を詠んだ藤原定頼と付き合うようになったと言われています。
その後、相模は一条天皇の第一皇女・脩子内親王に仕えました。
- 歌川国芳の『百人一首之内』
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江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。
百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。
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