時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

日本語

English

音声

曽禰好忠そねのよしただ

由良ゆらのとを
わた舟人ふなびと

ゆくへもらぬ
こいみちかな

曽禰好忠
曽禰好忠

THE fishing-boats are tossed about, When stormy winds blow strong; With rudder lost, how can they reach The port for which they long? So runs the old love-song.The Priest Ne-yoshi-tada

46番歌
由良ゆらのとを わた舟人ふなびと
ゆくへもらぬ こいみちかな
作者:曽禰好忠そねのよしただ(生没年不詳)
出典:新古今和歌集
現代語訳
由良の河口を渡る船人が、櫂をなくして漂うように行方の知れない恋路であることよ
解説
この歌は、急峻な河口で操舵する舵を失くした船乗りのように、恋路に迷い困り果てた心境を詠んだものです。
どんな人?
曽禰好忠は、万葉集で用いられる古語を積極的に取り入れ、和歌の表現の幅を広げようとしたり、百首単位で詠む百首歌を始めた先駆者でした。しかしながら、その斬新な作風は当時の貴族たちからは理解されず、むしろ異端と見なされました。しかし、後に彼の歌は高く評価され、『詞花和歌集』ではもっとも多く採られています。彼は丹後掾として丹後に赴いていたため、由良川は慣れ親しんだ風景だったと考えられます。由良川は京都府舞鶴市、宮津市を流れる川で日本海に注ぎます。
枕詞なし掛詞縁語なし序詞本歌取りなし歌枕
枕詞
枕詞とは、特定の語句を導き出すための5文字の言葉です。導き出す語句の直前に置かれ、語調を整えたり、ある種の情緒を添えます。

この歌には枕詞はありません。

掛詞
掛詞とは、同音異義語の語句(景物と心情)を重ねて用いることで、言葉の連想により世界を広げる技法です。

この歌に掛詞はありません。

縁語
縁語とは意味的に関連の深い語句を用いることで、言葉の連想により、味わい深いものにする技法です。

この歌には縁語はありません。

序詞
序詞とは、言いたい言葉を導き出すために前置きされる言葉のことです。序詞は歌人が独自に作成し、7文字以上で構成されます。比喩によるもの、掛詞にかかるもの、同音を繰り返すものの3種類があります。

「由良のとを 渡る舟人 かぢを絶え」が序詞です。比喩表現で「ゆくへも知らぬ」を修飾しています。

本歌取り
本歌取りとは、古歌の一部を借用することで、古歌の心情や趣向を取り込む技法のことです。本歌は左記のとおりです。

この歌は本歌取りしていません。

語句・豆知識
由良 の と
由良川の海峡を
渡る 舟人
漕ぎ渡る舟人が
かぢ 絶え
櫂(または櫓)を失って
行方 知ら
どうなるかわからない
かな
恋の道だなあ
小野小町の梶を失くした舟に
見立てた歌
小野小町も曽禰好忠と同じく、漠然とした不安を梶を失くした舟に見立てて歌を詠んでいます。

原文

須磨すま海女あまうらこぐふねかじ
よるべなきかなしかりける 続古今和歌集』小野小町

現代語訳

須磨の浦で舟を漕ぐ海女が梶を失ったように、寄る辺もない我が身の悲しさであることよ。

行方知らずの心境を詠んだ西行の歌
西行も曽禰好忠と同じように行方知らずの心境を詠んでいます。
『新古今和歌集』の詞書には「東の方へ修行し侍りけるに、富士の山を詠める」とあります。どこへ向かうかわからない富士の煙に、自分の行方も定めぬ放浪の旅を重ね合わせているようです。

原文

かぜになびく 富士ふじけぶりそらえて
ゆくへもしらぬ わがおもひかな 『新古今和歌集』西行

現代語訳

風になびく富士山の噴煙が空に消えるように、
私の思いもこの先どこにたどり着くのかわからない。

過ぎゆく秋を惜しんだ歌
「きりぎりす」は今の「こおろぎ」のことです。
晩秋に鳴くこおろぎの鳴き声に残り少ない秋を名残惜しんでいます。
こおろぎ

原文

けやよもぎそまの きりぎりす
ぎゆくあきは げにぞかなしき 『後拾遺和歌集』曾根好忠

現代語訳

鳴けよ鳴け。蓬を杣にしているこおろぎよ。
過ぎゆく秋はまったく悲しいものだ。

由良川(京都府)
由良川(京都府)

京都府北部を流れる一級水系の本流。
京都丹後鉄道が日本海をバックに由良川を渡ります。地図へのリンク

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