時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

日本語

English

音声

参議等さんぎひとし

浅茅生あさじう
小野おの篠原しのはら
しのぶれど
あまりてなどか
ひとこいしき

参議等
参議等

’TIS easier to hide the reeds Upon the moor that grow, Than try to hide the ardent love That sets my cheeks aglow For somebody I know.The Privy Councillor Hitoshi

39番歌
浅茅生あさじう小野おの篠原しのはら しのぶれど
あまりてなどか ひとこいしき
作者:参議さんぎひとし(880年~951年)
出典:後撰和歌集
現代語訳
浅茅生の野の篠原ではありませんが、心に忍ぼうとしてもこれえきれない。どうしてこれほどまでにあの人のことが恋しいのでしょうか。
解説
この歌は片思いをした相手を想って詠まれました。忍びきれずにあふれ出る恋心を表現しています。「浅茅生の 小野の篠原」が序詞で「忍ぶ」という言葉を導いています。「浅茅生」や「篠原」に直接的な歌の意味はないという説と恋を忍ぶ苦しい気持ちを荒涼とした風景に重ねているという説があります。
どんな人?
参議等は、嵯峨天皇のひ孫でしたが、臣籍降下し、源等(みなもとのひとし)と名乗りました。三河守丹波守美濃権守備前守と地方官を歴任し、最終的に参議にまで昇進し、公卿入りしました。
枕詞なし掛詞縁語なし序詞本歌取り歌枕なし
枕詞
枕詞とは、特定の語句を導き出すための5文字の言葉です。導き出す語句の直前に置かれ、語調を整えたり、ある種の情緒を添えます。

この歌には枕詞はありません。

掛詞
掛詞とは、同音異義語の語句(景物と心情)を重ねて用いることで、言葉の連想により世界を広げる技法です。

この歌に掛詞はありません。

縁語
縁語とは意味的に関連の深い語句を用いることで、言葉の連想により、味わい深いものにする技法です。

この歌には縁語はありません。

序詞
序詞とは、言いたい言葉を導き出すために前置きされる言葉のことです。序詞は歌人が独自に作成し、7文字以上で構成されます。比喩によるもの、掛詞にかかるもの、同音を繰り返すものの3種類があります。

「浅茅生の 小野の篠原」が序詞です。
「しの」にかかって、同じ音を繰り返しています。

本歌取り
本歌取りとは、古歌の一部を借用することで、古歌の心情や趣向を取り込む技法のことです。本歌は左記のとおりです。

浅茅生の 小野の篠原 しのぶとも
人知るらめや いふ人なしに

古今集 詠人知らず

歌枕
歌枕とは、和歌に登場する景勝地のことです。

この歌に歌枕はありません。

語句・豆知識
浅茅生
丈の短いが生えた
野原の
篠原
丈の低い細い竹が群がり生えた原
忍ぶれ
じっと耐えても
あまり など 恋しき
どうしてこんなにもあの人が恋しいのだろうか。
参議等の系図
参議等の系図 源融 陽成院 光孝天皇 在原行平 在原業平

の番号が付いている人物をクリックすると、その歌人のページに移動します。

源融は嵯峨天皇の曽孫です。三河守・丹波守・美濃権守・備前守と地方官を歴任しました。947年、68歳で参議になり公卿入りを果たしますが、そのわずか4年後に72歳で亡く亡くなりました。

本阿弥光悦の『舟橋蒔絵硯箱』

江戸時代の芸術家・本阿弥ほんあみ光悦こうえつ の硯箱。山形に盛り上がった蓋の表面には源等の和歌「東路の佐野の(舟橋)かけてのみ 思ひ渡るを知る人ぞなき」の文字が散らして配置されています。「舟」と「橋」の文字はなく、舟は蒔絵で描かれ、橋は鉛の板で表現されています。
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

『舟橋蒔絵硯箱』の和歌

原文

東路あづまぢ佐野さの舟橋ふなはし かけてのみ
おもわたるを ひとのなき 『後撰和歌集』源等

現代語訳

東国の佐野の舟橋がかけてあるように
あなたのことを心にかけてずっと恋し続けていますが
あなたは気づいてくれません。

『諸国名橋奇覧 佐野の舟橋』
佐野の舟橋 Katsushika Hokusai, CC0, via Wikimedia Commons

佐野の舟橋」は群馬県高崎市の烏川に架かっていた橋です。たくさん並びつなげた舟の上に横板を渡した橋のことです。

この画像は葛飾北斎が描いた浮世絵『諸国名橋奇覧 佐野の舟橋』です。画像をクリックすると拡大表示されますので、橋の下に並ぶたくさんの舟をぜひご覧ください。

源氏物語に登場する
浅茅生が詠まれた和歌
次の歌は、『源氏物語』の「賢木さかき」巻に登場する一首です。
光源氏が恋しい妻を残して寺に籠り、出家の覚悟を試す場面に詠まれました。

原文

浅茅生あさじうつゆのやどりに きみをおきて
四方よもあらしぞ しづごころなき 『源氏物語』光源氏

現代語訳

茅が茂る露のようにはかないところにあなたを残してきて、 四方から吹きつけてくる激しい風の音を聞くと、心が落ち着きません。

『百人一首姥かゑとき』
葛飾北斎による木版画
Katsushika Hokusai, CC0, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。百人一首の歌を乳母がわかりやすく絵で説明するという趣旨で制作されたものです。

田んぼのあぜ道を歩く貴族は肩を落としているようです。霞がかかる憂いを帯びた情景も相まって失恋に沈む気持ちが表現されているように思われます。

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