時雨の百人一首

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日本語音声:NHKクリエイティブ・ライブラリー

Translated by WILLIAM N. PORTER
English Audio:LibriVox

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春道列樹はるみちのつらき

山川やまがわ
かぜのかけたる
しがらみは
ながれもあ
紅葉もみじなりけり

春道列樹
春道列樹

THE stormy winds of yesterday The maple branches shook; And see! a mass of crimson leaves Has lodged within that nook, And choked the mountain brook.Tsuraki Harumichi

32番歌
山川やまがわかぜのかけたる しがらみは
ながれもあ紅葉もみじなりけり
作者:春道列樹はるみちのつらき(生年不詳~920年)
出典:古今和歌集
現代語訳
山間の川に風がかけたしがらみとは、流れきらずにたまっている紅葉だったよ。
解説
この歌は、『古今和歌集』の詞書に「志賀の山越えにて詠める」とあり、京都から大津へ超える山道で見た渓流の景色を見て詠んだようです。歌では、山川に流れずに溜まっていた紅葉を、秋風が吹き寄せた美しいしがらみであると見立てています。
どんな人?
春道列樹は古代の有力氏族・物部氏の末裔です。若い頃は文章生として勉学に励みました。壱岐守に任ぜられましたが、壱岐への赴任の途上で、病に倒れ、志半ばで亡くなりました。彼には家集もなく、歌人としてあまり知られていませんが、百人一首の撰者である藤原定家は、この歌を本歌取りするほど気に入っており、高く評価していたと考えられます。
語句・豆知識
山川
山の中に流れる川に
かけ たる
風がかけた
しがらみ
川をせきとめるしがらみは
流れ あへ
流れきれない
紅葉 なり けり
紅葉だったのだなあ
藤原定家が本歌取りした和歌

「風のかけたるしがらみ」という表現は、春道列樹が最初に用いた、非常に独創的な言葉だったと考えられています。
この独自の表現こそが、定家が彼の歌に深く惹かれ、本歌取りをするほど気に入っていた理由だったのでしょう。

原文

もて かぜのかけたる しがらみに
さてもよどまぬ あきれかな 『拾遺愚草』藤原定家

現代語訳

木の葉が風に吹き寄せられてしがらみのようになっているが、そうであっても淀むこと流れていく秋の暮れであることよ。

葛飾北斎による浮世絵
百人一首うばが絵解  葛飾北斎  春道列樹
National Diet Library, Public domain, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎による作品『百人一首姥かゑとき』です。百人一首の歌を乳母がわかりやすく絵で説明するという趣旨で制作されたものです。木材を加工する人たちの下に流れる川にはもみぢ葉が堰をつくるように滞留している情景が描かれています。

歌川国芳の『百人一首之内』
歌川国芳による春道列樹の浮世絵
British Museum, Public domain, via Wikimedia Commons

江戸時代の浮世絵師・歌川国芳による浮世絵です。百人一首の和歌に合わせた情景が描かれています。

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