三十六歌仙
藤原公任が編纂した秀歌撰『三十六人撰』に撰ばれた歌人のこと。『三十六人撰』には、人麻呂や貫之ら有力歌人6名は1人10首、他30名は1人3首採られ、合計150首の和歌が収められています。これを基に36人の歌人の代表歌が1首ずつ撰ばれ、まとめられた『三十六仙人歌集』が
柿本人麻呂(3番) ほのぼのと 明石の浦の 朝霧に
島がくれゆく 舟をしぞ思ふ
紀貫之(35番) 桜散る 木の下風は 寒からで
空に知られぬ 雪ぞ降りける
凡河内躬恒(29番) いつくとも 春の光は わかなくに
まだみ吉野の 山は雪ふる
伊勢(19番) 三輪の山 いかに待ち見む 年ふとも
尋ぬる人も あらじと思へば
大伴家持(6番) 春の野に あさる雉子の 妻こひに
おのがありかを そこと知れつつ
山部赤人(4番) 和歌の浦に 潮満ちくれば かたを波
葦べをさして 田鶴鳴き渡る
在原業平(17番) 世の中に たえてさくらの なかりせば
春のこころは のどけからまし
僧正遍昭(12番) たらちねは かかれとて しもぬば玉の
我が黒髪は なですやありけむ
素性法師(21番) 見渡せば 柳桜を こきまぜて
都ぞ春の にしきなりける
紀友則(33番) 夕ざれば さほの河原の 川霧に
友まよはせる 千鳥鳴くなり
猿丸大夫(5番) をちこちの たづきもしらぬ 山中に
おぼつかなくも 呼子鳥かな
小野小町(9番) わびぬれば 身を浮草の 根を絶えて
誘ふ水あらば いなむとぞ思ふ
藤原兼輔(27番) 短か夜の 更けゆくままに 高砂の
峰の松風 吹くかとぞ聞く
藤原朝忠(44番) 逢ふことの 絶えてしなくば なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
藤原敦忠(43番) 伊勢の海 ちひろの浜に ひろふとも
ここそ何てふ かひかあるべき
藤原高光 かくばかり へがたく見ゆる 世の中に
うらやましくも すめる月かな
源公忠 ゆきやらで 山路くらしつ 郭公
いま一こゑの きかまほしさに
壬生忠岑(30番) 子の日する 野辺に小松の なかりせば
千代のためしに 何をひかまし
斎宮女御 琴の音に みねの松風 かよふらし
いづれのをより しらべそめけむ
大中臣頼基 ひとふしに 千代をこめたる 杖なれば
つくともつきじ 君がよはひは
藤原敏行(18番) 秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども
風の音にぞ おどろかれぬる
源重之(48番) 風をいたみ いはうつ波の おのれのみ
くだけてものを 思ふころかな
源宗于朝臣(28番) ときはなる 松のみどりも 春くれば
いまひとしほの 色まさりけり
源信明 恋しさは おなじ心に あらずとも
今よひの月を 君みざらめや
藤原清正 天つ風 ふけゐの浦に すむたづの
などか雲井に 帰らざるべき
源順 水のおも にてる月なみを 数ふれば
今宵ぞ秋の もなかなりける
藤原興風(34番) たれをかも 知る人にせむ 高砂の
松もむかしの 友ならなくに
清原元輔(42番) 秋の野は はぎのにしきを ふるさとに
鹿の音ながら うつしてしかな
坂上是則(31番) みよし野の 山のしら雪 つもるらし
ふる里寒く なりまさるなり
藤原元真 咲きにけり 我が山里の 卯の花は
垣根にきえぬ 雪と見るまで
小大君(東宮左近) 岩はしの 夜のちぎりも たえぬべし
明くるわひしき かつらぎの神
藤原仲文 有明の 月の光りを まつほどに
我夜のいたく 更けにけるかな
大中臣能宣(49番) 千年まで かぎれる松も けふよりは
君がひかれて よろづ代やへむ
壬生忠見(41番) やかずとも 草は萌えなむ 春日野は
ただ春の日に 任せたらなむ
平兼盛(40番) くれてゆく 秋のかたみに おくものは
わがもとゆひの 霜にぞありける
中務 秋風の 吹くにつけても とはぬかな
荻の葉ならば 音はしてまし